一人の部屋で、ソファーに座ってぼんやりと茶を啜る。
 ラビ達でもいれば違うんだろうが、一人では置かれている大きなテレビに電源を入れる気にもならない。あんなのただ五月蝿いだけだ。
 リビングにいた俺は、父上によって自室に戻るよう命じられた。
 理由は一つ。
 ラビ達が出掛けて不在の今日、父上と俺だけが残った家に、眼の奥の敵意をチラチラ覗かせる弁護士風の二人の男がやってきたからだ。

 …………どうせまた財産どうこう言われてるんだろうな。

 俺に聞かせる話ではないと判断した父上が俺を部屋に戻した訳だが、こういった内容を掲げた弁護士が来るのは実はこれが初めてじゃない。
 最初のルベリエはまぁ置いておくとして、その他には三回。それぞれ、ティキとラビとモヤシの、家族というには遠いような人間が雇った弁護士。
 毎回毎回嬉々として俺が父上の子じゃない証拠を揃えて持って来るが、一体何処から手に入れるんだろうと首を傾げたくなる。こういうのはアレだ、個人情報とか言わなかったか。
 俺としてはそもそも父上が健在なのに遺産の話になるのはおかしいだろう、と毎回思っているのだが…………。
 どうやらそうやって弁護士を使いに出す人間は、ティキ、ラビ、モヤシの取り分が減るのを危惧しているらしい。
 もし奴らが財産を相続した後に「どうにか」なったら、自分の所にも取り分が回ってくる――――――しかし普通に考えればそんな遠縁に回る前に母方の家族や近い親族に行くと思う――――――、若しくはこういう申し立てをして恩を売って…………という事だそうだ。どうにか、って言ったって三人共まだ若いし、恩をわざわざ買うような奴らでもないんだが。
 ティキの時は、後日ティキの実家から人が来て、遠縁がみっともないことを、と父上に謝っていた。彼らは本家からの縁を切る、とも。
 今回もきっとそんな展開になるだろう。
 寒いのはきっと部屋の温度のせいじゃない。そんな事を、ぼんやりと思った。

 


 ぼんやりとしていると、ガタン、と音がして意識がそちらに持っていかれた。手の中の湯のみは既に冷たい。そんなに時間が経っていたとは思ってなかったが…………。
 前室と部屋とを隔てる扉を見ていると、直ぐにそこも開かれた。

「父上」
「漸く帰りやがった。ったく…………」

 無駄な時間取りやがって、とぶつぶつ文句を続けた父上は乱暴な動作でソファーに座った。反動で俺の体が少し跳ねる。回された腕に逆らう事無く、大人しく抱き寄せられた。

「んな顔すんな」
「は、」

 今俺はどんな表情をしているんだろう。
 顎先を捉えられて、大人しく目を閉じた。

 

 

「傍に置くことで、却って傷付けるのではないのか」そう指摘されたのは一度や二度の話ではなかった。縁の無い者が恵まれた環境を得るのは要らぬ嫉妬や悪意を向けられることになるのだろうと。
 それでも今更手放すことなど出来はしない。それが例えどんなに残酷な事であろうと、只のエゴかと糾弾されたとしても。妄執だと嘲笑されたとしてもだ。
 奪おうとするならば加減せずに滅ぼしてやる。狂っていると謗られ様ともだ、好きなだけ喚くがいい。

「…………」

 ――――――さて、人の掌中の珠にケチつけてくれた邪魔者は、どうやって滅ぼそうか。
 そんな事を考えながら、薄ら笑った。凶器になるようなものを探して、私室へと足を向ける。
 傍を離れる事に今はもう不安は無かった、何故なら兄弟達に報を一つ入れてやった所すぐに戻ってくるという。中でも既に帰って来たラビが今ユウの直ぐ傍らにいる。
 帰宅しすれ違った時にはまるで人を射殺しそうな程苛立った目をしていたが、さてどんな形で慰めるのか。

 …………あぁ、本当に、よく似ている。

 

 

 俺を見た時、ユウは驚いた顔をした。

「おかえり、早かったな」
「うん、思ったより早く着けて」

 勿論大嘘だ。
 クロスからの連絡に全てを放り出して駆けつけただけだ。でもそんな事を言ったらきっとユウは怒るだろうから、しー、だ。
 笑ってユウの傍に寄って、でも腹の中は変わらず煮えくり返っている。勿論今日やって来たという奴等とその背後にいる依頼人とやらにだ。

 …………どうして邪魔するんだろう。
 お前らなんかにうちの事は関係無い。
 ユウを迎え入れたことを、どうして顔も知らないような奴等に非難されなきゃいけないんだ。それも、決まって奴等は迎え入れた俺達ではなくユウを否定して非難する。
 平気そうな顔をするけど、本当はユウがそんな事がある度に傷ついているのを知っている。

 許さない。
 踏み入ってくることも傷つけることも、絶対許さない。

「…………ラビ?」

 訝しげな顔でユウが近づいてくる。
 何でもない、と笑いかけて背中に手を回し、その肩に自分の額をくっつけた。――――――剣呑な表情を見られたくなくて。
 回した手に力を込める。

「ラ、」
「ユウ、」

 ねぇ、俺達は絶対に許さないから。
 ユウを少しでも苦しめようとする奴等なんか、

 全部、滅ぼしてしまえばいい。

 ――――――ねぇ?







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 この一家は次男にちょっかい出されると途端にスイッチが入ります。


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