やたら派手な内装にはもう慣れた。
 なので俺は食堂の入り口にタキシードの黒服姿の男が立ってようが、最早最初のようには驚かない。
 …………ま、あくまで「最初のようには」ってだけで驚いちゃいるんだがな…………。

「いらっしゃいませ、只今のお時間はプリフィクスランチコースのみのご提供ですがよろしいでしょうか?」
「ええ」
「本日の前菜はズワイ蟹のカネロニ仕立て、スープはグリーンピースの冷製クリームスープとなっております」
「今日のメイン何ですか?」

 早速フォークとナイフを手にしたモヤシが、急かす様に言った。

「はい、本日のコースのメインは、お魚が天然スズキのロースト、アーティーチョークのエチュベのバリグール風又は爽やかなラスカスのブイヤベース仕立てをカリっとしたジャガイモと共にどうぞ。お肉が鴨胸肉のグリエ、茸のムニエルとガーリックのムースリーヌ又は牛ホホ肉と豚足のクリスティヤン、スパイスの香るソース仕立てとなっております。お好きなものをお選びください。また、デザートは桃のグラニテ又はガトーショコラ、食後のお飲み物はコーヒー、紅茶、フレッシュジュースの中からお好きなものをどうぞ」
「…………あ?」

 何だって?

 すらすらと黒服の連ねる料理名は、聞いたことも無い様な物ばかりだ。名前だけじゃどんなのかさっぱり予想も付かない。

「俺肉ね。鴨の方。他はテキトーに合うので」
「僕は全部、いつも通りで」

 ぜ、全部?

「…………俺はこいつと同じのを…………」
「畏まりました」

 黒服は一礼するとテーブルの間をスイスイ歩いてカウンターの方へと帰っていった。

「ユウ、俺と同じで良かったの?」
「…………何がなんだかさっぱり分かんねーよアレじゃ。つーか此処本当に学食か?」

 学食って言ったら普通蕎麦とかうどんとかラーメンとか、丼モノとかだろ。
 水の入ったグラスですら、割ったらとんでもない弁償金が必要そうで落ち着かない。 

 そう言うと、ラビとモヤシは肩を竦めた。

「まーね、俺も最初はびっくりしたけど。クロスが出資してるフレンチやイタリアンの名店の若手シェフやウェイターが修行で来るんさ、此処」
「修行って言っても十分美味しいですけどね」
「それでこんなんなのか」
「うん。学内の中では一番大きいし、卒業生や関係者なら外部でも利用できるけどね。此処は11時から14時まではランチコースしかないから、もっと軽いメニューがいいならカフェテリアの方に行けばいいんだけど」
「…………カフェテリア」
「ええ、朝は7時から夕方は8時まで授業時間帯含めてやってて、軽い飲み物とか軽食があります」
 
 そんな話をしていると、料理が次々と運ばれてきた。
 確かにどれも旨かった。が、量が多かったので多い分はみんなモヤシに押し付けた。

「…………お前よくそんなに食うな」

 朝飯だって人の6,7人分食っといて…………
 モヤシは一人だけ山盛りの前菜とスープを次々と空にして、4種類×3,4人分ずつのメインをあっさり平らげていった。
 パンだって切り分けたのを俺が1つ、ラビでも3つというのを,3本分あっさり食べてるし…………
 その細っこい身体の何処に入ってるんだ?

「アレンが質量保存の法則無視してるのはいつもの事さぁ」

 ラビが笑った。
    
「今日はそんなに食べてないですよ? 神田が少食過ぎなんですよ」
「何処がだ!!」

 心外だと言わんばかりのモヤシに全力で突っ込んだ。
 それのどこが「そんなに」だ!

「ま、アレンのはいつもだから置いといても、ユウはほんとに食が細いさねぇ…………」
「そもそもお前らみたいに腹一杯にしようと思ってねぇんだよ」

 腹八分目って言葉を知ってるんだろうか、こいつらは。

「…………でさ、ユウ。午後なんだけど、俺ちょーっと十字会の仕事が入っちゃったんさ。悪いんだけど図書館辺りで待っててくれない?」
「十字会?」
「生徒会長、同副会長と正副議長及び書記、会計の計六名の執行委員と各委員会の正副委員長から成る此処の生徒会の事です。教授会と同程度の権力を持ってる、師匠直属の組織ですよ」
「…………っていうか今更聞くが、此処の理事長って」
「クロスさね」「師匠です」
 
 二人が同時に言った。
 …………あ、やっぱりモヤシの言う師匠ってあの人の事だったのか…………
 
「そいやユウもいずれは十字会入る事になるさね」
「何でだよ? 面倒なのは…………」
「理事長子息だからですよ」

 モヤシがスプーンを咥えながら言った。…………行儀が悪い!

「理事長子息って肩書きは望むと望まないと此処じゃ特権階級だからね」
「教授陣ですら僕らには気を使ってますから。で、十字会入りは箔付けみたいなもんです。ラビだって本当なら三年なんだから引退してる筈なのに、理事長子息だからってことで未だに会長やってますし」
「ま、名誉職みたいなもんだからいいけどさ」
「あ、そういえば…………」

 モヤシが鞄から厚いアルバム? みたいな本を取り出した。

「何だコレ?」
「学年別の名簿です。こっちが一年生の分で、こっちが二年生」
 
 いかにも上質そうな暗赤の布張りの表紙を開く。
 一ページ目にはなにやら詩らしきモノが書いてあったが興味が無いので無視し、そしてもう一ページ開いて俺は固まった。

 そこには、まるでモデルかのように格好つけた一年生の写真が乗っていた。
 下には名前と所属クラス、好物や得意教科、自己PR、連絡先、あと寮のナンバーらしき数字が載っている。

「…………な、んだこれ?」
「だから名簿ですって」
「自分の学年以外のが配られるんさぁ。俺達三年は一、二年のを、逆にアレンは二、三年の持ってるさ」

 …………いや、これで何すんだ?

 唖然としながらパラパラと捲って、辿り着いたページに俺は盛大にむせた。

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