…………母上の死から十日。
俺は、ティエドールのおっさんに連れられて、大きな屋敷を訪ねていた。
蔦の茂った、まるで海外の昔の映画に出てくるような屋敷だ。
俺は数少ない身の回りのものを詰めたスポーツバックを肩に掛け、腰に母の遺品である日本刀「六幻」を刺していた。
…………数日間の所為で俺の目は赤く泣き腫れていた為サングラスでごまかして、帽子を被っている。服は普通のTシャツにジーパン。…………実の父親との対面に余り相応しくないかもしれないが、手持ちの服が無いのでしょうがない。制服は学校に返してしまったのだし。
「…………でか」
思わず呟いた俺に、おっさんは優しく微笑んで俺の頭を撫でる。
「話はもう通してある。今日は四人とも揃っているそうだ。…………さぁ、行くよ」
僅かに尻込みしたのを悟られたのか、おっさんはそう言って俺を促した。
勝手知ったるとばかりに入っていくおっさんの後を追って、俺も中に入った――――――。
「マリアン、いるんだろう?」
入った屋敷は、外観から予想できた通りの豪華な造りだった。
足元はやたらと毛足の長いカーペット。壁には美術の教科書にでも載ってそうな壷や絵が飾られ、極め付けは多分四階くらいある吹き抜け。天井から下がっているのはシャンデリアだ。
…………シャンデリアなんて、中学の修学旅行で泊まったホテルのもの以外見たことが無い。
早速居心地の悪さを感じて、若干引き気味に眺めていると、奥から声がした。
「ティエドールか」
中に入っていくおっさんを追いかけた俺は、その部屋の入って早々立ち尽くした。
エントランスよりも一層豪華な部屋だ。…………暖炉なんて、テレビの中でか見た事が無い。
ドレープの掛かった深紅のカーテン。金色のやたらデカいテーブル。
…………その一番奥、俺達から一番遠い所に紅い髪のガタイのいい男がどっかりと座っていた。
そしてその右隣には褐色の肌に黒い髪の男。そしてそいつに向かい合う位置には赤い髪の男と、白い髪の…………まだガキがいた。
四人の、計八つの目にじっと見つめられ、俺は居心地の悪い事この上無かった。
「そいつが、俺の息子か」
「ああ。彼女の子だ」
「…………アレの息子にしちゃ貧相だな」
ひ、貧相?
俺の事、貧相つったかこの野郎は!?
「大体何だそのこ汚い格好は」
「…………一銭たりとも援助してない君にそんな事を言われる覚えは、この子も無いと思うがね」
俺が怒りに眉根を寄せると、ティエドールのおっさんが前に出て俺を庇った。
…………何で?
「マリアン。言った通り、一ヵ月後もう一度私はここに来る。その時この子が此処に馴染めていなかったら、その時は私がこの子を引き取るよ」
「え、」
何時の間にそんな話になってたんだ。
驚いて俺はおっさんを見上げた。
「…………ユー君を幸せに出来ないなら、君にユー君を任せたりしない。そもそも私は君を認めた訳じゃないんだ」
「…………」
俺の父親…………クロスとか言う奴は、煙草の煙をダルそうに吐き出すと、隣にいた赤い髪の男に顎で俺を示し、
「ラビ、そいつに服貸してやれ。ついでにそいつを部屋に案内しとけ」
「あいよ」
そう言い残すとクロス――――――実の父親を呼び捨てもまずいか――――――は席を立って俺の方へと歩み寄り、俺の目の前に立ち見下ろした。
「…………もっとアレに似てればいいもんを」
そうとだけ言い残すと、俺の前を通り過ぎていった。
きつい煙草と酒の匂いに思わず俺は息を止める。
(…………、)
駄目な男と、聞いてはいた。
感動的な親子の対面とやらを期待していた訳でもない。
けれど俺は、予想の斜め右上を行く父親に思わず絶句した。
「ふぅ…………やっぱり失敗だったかな?」
…………ティエドールのおっさんが、溜息を付いた。