「おー、やってるやってる!!」

 第三体育館。
 学校の敷地の南のほうにある体育館は、第一、第二の体育館よりは多少狭かった。
 とは言っても俺の通っていた高校のよりは、大分デカいが。
 今そこには、40人程の生徒がブレザーを脱いだ格好で二人一組になって、スピーカーから流れるクラシックらしき曲にあわせて揃った動きを見せている。

 …………やっぱホラーだな…………。

「モヤシは何処だ?」
「あの真ん中んとこ。一番背の高い、部長さんと組んで踊ってる」

 20組の丁度真ん中辺りに、モヤシは確かにいた。

「皇帝円舞曲…………ウィンナワルツさね」
「…………ソーセージ?」
「…………ウインナーじゃないさ。ユウ」
 
 知らねぇよ!

 丁度終わり掛けだったのか、曲が止まると組んでいた奴等が散り出した。

「おお、ナイスタイミング」

 壁際に置いてあるらしい私物の飲み物やらタオルやらを殆どの奴等が取りに戻る中、モヤシはその場で息をついていた。
 
「おーい、アレンー!!」
 
 あ。馬鹿…………。

「「「「きゃああああーっ!」」」」
「「「「ラビ様ーっ!!!」」」」

 ラビがモヤシに向かって叫ぶと、モヤシじゃなくて他の一年の部員から声が返ってきた。 

「やだ、こんな格好の時に…………!」
「ねぇ君、櫛と鏡を持ってない!?」
「ラビ様がおいでになるなんて聞いてないよ!!」
「おや、会長だ。珍しいね、部活動を見学に来られるとは」
「みろ、神田先輩もご一緒だぞ!」
「アレン君の練習姿をご覧になりに来たんじゃないか? 何せ弟君だのだから」

 一年生は慌てふためき、二、三年も何やら囁き合っている。
 …………モヤシはパタパタとこっちに向かって走ってきた。

「あれ、二人共まだいたんですか?」
「ちょっと図書館にな。時間丁度良さそうだったから迎え来たんさ」
「わざわざありがとうございます。神田も」

 俺は別にどうでもいいんだがな。

「でもすいません、あともう一曲あるんで、もうちょっとだけ待っててくれません?」
「あれ、今のラストじゃなかったんさ?」
「ええ、最後にラ・クンパルシータが…………」
「ああ、あれ? 待ってるからさ、頑張れよ」

 モヤシは俺達に手を振って、再び体育館の中心へと戻っていく。
 やがて曲が始まり、体育館の隅に散っていた奴等が戻ってきた。 
 興味が無い俺は上を見上げて―――――――ふと違和感に眉根を寄せた。
 いくつかある変色する特殊なライトだ。しかし、そのうち一つが、

 あのライト、付いてねぇ…………
 電球切れてんのか?

 あのライトは文化祭用だとかで、つい一昨日に業者が取り付けてったもんだ。
 二、三日で切れるなんてのは感心できた話じゃねぇ。

 暫く見上げていると、そのライトが動いた様な気がした。

 …………って何で、ライトが動く…………っ!?

 はっきりと分かるくらい、そのライトはぐらついて―――――――

 下にいるのは、

「モヤシっ…………!」

 駄目だ、叫んでも気付かない!!

 そして、音すら立てずに、そのライトが落ちて来た―――――――!!
 
「え、ユウ!? どしたの!?」

 俺は、そのライトが落ちるであろう場所へ、駆け出した!!
  
 

 そして辿り着いた先、驚いたように目を見張るモヤシの頭を抱え込んだ瞬間、鋭い痛みがこめかみに走った――――――。






 ガシャンッ!!

「ユウっ!!」
「「「「きゃああああああっ!!!!」」」」

 体育館中に悲鳴が響き渡る。
 隣で壁に凭れていたユウが、突如アレンに向かって走り出した。
 そしてその直後だった、天井に取り付けていたライトが落ちたのは!!

「なっ、」
「神田先輩!」

 周囲が騒然とする中、俺も二人に向かって走った。
 
「ユウっ、アレンっ、大丈夫か!?」

 ライトは、丁度二人の辺りに落ちたのだ。
 多分ユウには、落ちてくるライトが見えたんだろう。
 
「僕は、大丈夫です…………」

 ユウに抱き抱えられていたアレンが答えた。
 …………二人のいるところから30cmも離れていない床が、凹んでいた。辺りには破片が散乱してる。

「ユウ、大丈夫!?」
「神田…………!」

 ユウは片手を付いて起き上がった。
 そしてもう片手で顔の横を押さえながら、

「…………ってぇ…………」


 ぱた…………っ


「「あ…………」」

 …………真っ赤な血が、床に落ちた。

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