モヤシが俺の寝かされているベッドのすぐ脇まで来た。 

「あの…………ありがとうございました」
「あん?」
「庇ってくれて、ありがとうございました」

 ぺこり、と頭を下げるモヤシ。

 …………。

「別に。俺が勝手にやったんだ」


 ぷいっ


 俺はそっぽを向いた。

「おお、ユウが照れてる〜」
「スナオじゃないねぇ神田は」
「うっせぇ刻むぞお前ら!!」
「だ、駄目ですって神田! 寝てなきゃ…………」
「あーもうユウは大人しく寝てなきゃ駄目さ!」

 ふざけた事を抜かす二人を切り捨ててくれようと思ったが、三人に無理矢理ベッドの中に戻された。
 …………くそ。

「さぁておふざけもいい加減にして、神田はそろそろ寝ちゃいな。…………ね?」

 ティキが俺の額に触れる。
 
「アレンもな。さぁさ皆いい子で早寝しますか」
「…………神田、僕今日此処で寝てもいいですか?」
「あ?」
「…………え?」
「もしもの事があったら嫌です。ベッド広いですし。…………駄目ですか?」

 モヤシが俺を上目遣いで見上げながらそんな事をほざく。

「えっ、じゃ、じゃあ俺も寝る!!」
「お前もか!!」

 邪魔くせぇっ!!

「…………ねぇ、駄目ですか?」

 くいくい。

 モヤシが俺の服の袖を引っ張る。
 …………。

「勝手にしろ…………」

 そう答えると、モヤシとラビが諸手を挙げた。
 
「俺はクロスに話あるから寝れないや。残念。神田、今度一緒に寝ようか」
「お前の寝るってなんか別の意味含んでそうだから駄目!!」

 ラビが猛然とティキに抗議する。
 …………別の、って何だ?

「あーはいはい。ともかく寝る寝る」

 ティキがポンポンと手を叩き、モヤシとラビはもそもそベッドの中に入ってきた。

「おいあんまくっつくな、邪魔だ」
「「えぇー」」

 二人とも居心地良く眠れる場所を見つけたらしく動きが止まった。するとティキが照明をいじってすぐに光を落とす。

「おやすみー」

 
 カツカツカツ…………
 
 パタン。


 ――――――ティキが出て行った音がした。








 
 
 一階のダイニングで晩酌がてら雑誌を捲っていた俺は足音に視線を上げた。   
 
「あ、クロスお帰りー」

 お子様ーズの部屋から出てきてから三十分くらい経っただろうか。 
 東館に、クロスが姿を現した。

「ああ。…………ユウの怪我はどうだった?」
「大したこと無い切り傷だって。頭とこめかみの辺り切ったから、見た目の出血量は多かったみたいだけど」
「そうか…………ったく、知らせを受けたとき肝が冷えたぞ」
「ライトの取り付け業者は?」
「厳重に抗議して置いた。明日朝一で社長以下重役揃って詫び入れに来るそうだ。…………一歩間違えば怪我じゃ済まなかったかもしれん事態だ。現場の首二、三は飛ぶだろうな」
「そうだね…………」

 ライトは重さ5kg超。
 そんな重さの物が、天井から落ちてきて、それがもしも頭に直撃したら。 
 ――――――下手をすれば、命を落としていたかもしれない。
 ましてや…………言い方が悪いが、あそこの生徒は皆良家資産家の子息。怪我をしたり、命を落としたとなれば慰謝料も莫大だろう。
 
「…………ま、本当大事にならなくて良かったよ」
「まぁな。…………他の奴らはどうした?」
「寝てる」
「こんな時間にか?」

 時間はまだ十時を少し回った辺りだ。
 
「神田は出血量多かったから貧血になるかと思って早めに寝かせた。あとの二人は心配だから、って付き添って寝てる」
「…………何だそりゃ」
「見に行ってみれば? もしかしたら寝入ってないかもよ?」

 そう伝えると、クロスは一瞬考え込んでから踵を返した。俺も何とはなしにその後を追う。
 
 二階に上がって、

「あいつは鍵っつーのは掛けないのか?」
「多分家の中で掛ける習慣ないんじゃない? 後は家の奴らや使用人、余程信頼してるか、ね」
「…………。」

 神田の部屋の前室に入る。
 そして寝室のドアを、音を立てないようにそっと開けた俺達は、思わず目を見張って顔を見合わせた。


 
 三人は、神田を中央にして、まるで仔猫が身を寄せ合うかのような格好で眠っていた。



「…………こいつらは獣か何かか?」
「おっかしーね、三十分前はちゃんと離れて寝てたんだけど…………」

 ラビは神田の背中に、アレンは神田の胸に、それぞれ顔を埋めて眠っていた。
 …………その様子に思わず顔が綻ぶ。

「…………微笑ましいね。こうしてると普通の兄弟みたいだな」
「ユウは苦しくないのか、この格好は」
「さぁ? 苦しそうじゃないけど…………クロス、あんたがニヤけてるとちょっと不気味」
「うっせぇぞティキ」

 俺達は低く囁き合って、そして回れ右をした。
 あんなに寝入ってるなら、起こす事も無い。

「…………さーて俺も寝るかな…………あの中にゃー混ざれないけど」
「混ざりたいのか?」
「いんや別に? あ、そだ来週なんだけどさ、ジャスデビがさぁ…………」

 


 …………大人二人が去った後も、僅かに差し込む月明かりの下。
 三人は悪夢も見ずに、安らかに眠っていた――――――。

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