「…………という訳で」
「ごめんなさい」
「…………」

 朝。
 アレンとユウが連れ立って俺の元まで来て、頭を下げた。
 理由は家具という家具をぶっ壊した事、だ。
 
 …………付き添いか。

「…………アレン」
「はい…………」

 末息子の目は、元からというのにも無理があるほど赤く泣き腫れていた。
 …………この末息子が母親を酷く憎んでいるのは知っている。 
 だが、今奴の顔には、負の感情以外の物が浮かんでいた。 
 全てを飲み込んで行くにはまだ若すぎる。だが、とりあえずの折り合いは付けられたんだろう。

 …………ユウに救われたのか?

 心の中だけで問いかけて、

「家具は幾らでも買い替えりゃいいだけだ。だが」

 包帯の巻かれた左腕。

「…………お前の身体は、金じゃ買えねぇんだぞ。…………分かるな?」
「…………はい」

 ――――――アレンは確かに、頷いた。

 
  

 
 
  

  
 
 …………そこから更に数日。俺達は到って平穏無事に――――――但し忙しく――――――過ごした。
 ラビは会長として様々な案件を(主に予算の増額とか、施設利用の可否判断だった)決裁し、モヤシは発表があるという部活動の練習に精を出している。
 …………が、俺は、どちらかといえば暇だった。
 何せラビが適当に作った会計監査取締…………本来の会計はいるんだから俺に仕事なんか回って来る訳がない。(本当に書類に印鑑押すだけだった)部活にも所属していないし、クラスの出し物は…………と思ったが例年三年はやらないものらしく、俺は実に手持ち無沙汰だった。
 余りにもアレなので、最近は先に帰って夕飯の支度を始めるようにしている。
 …………そんなある、文化祭まで残す所数日の事だった。
  
「ジャスデビが?」
「そーなの。で、悪いんだけど神田、明日奴らの分もメシ増やしてやってくれない?」

 朝、ティキが顔の前で手を合わせながら俺に頼んできた。
 何でもジャスデビが明日泊まりにくるらしい。
 
「そりゃ構わねぇけど…………何でだ?」
「それがさぁ、うちの母親の旦那の親戚の結婚式があるんだって。本当ならジャスデビも行くんだけど、あいつら学内報委員の委員長と副委員長だろ? この文化祭間際に学校留守に出来ない訳だ。しょうがないから、ロードだけ連れてく事にしたんだって。で、留守に二人きりにさせとくのはアレだからって、うちに寄越す事にしたんだってさ」
「…………高校生にもなって留守番一つ出来ないのか…………」
「あはは、そういう訳でもないんだけどね」
「俺は別に、構わねぇけど」

 どうせモヤシ用の食事が凄い量なんだ。今更一人分二人分増えた所でどうって事無い。

「で、何日だ?」
「二泊三日」
「分かった。メシの量増やしておく」
「ごめんね、ありがと。奴らにも手伝いするようによくよく言い含めておくからさ」

 ティキは顔の前で再度手を合わせた。










「「んじゃおっ邪魔〜」」

 当日の下校時。
 車止めにいた俺達の元へ、デカいバックをぶら提げたジャスデビがやって来た。

「うわ、凄い荷物ですねそれ」

 部活を休んだらしいモヤシが、ジャスデビの荷物に目を見張る。

「海外旅行用だからねっ!」
「何入ってんだよ」
「うーん、色々」
「あれ? ラビは?」
「まだ仕事だと」
「お前らは仕事大丈夫なのか?」
「うん、今の所はねっ!」
「全員分の衣装の手配も、呼ぶ楽団の手配もケータリングも全部完璧っ! 後は当日…………ってな」
「へぇ…………」

 見えなくても仕事ちゃんとしてたんだな。

「神田も当日楽しみにしててねっ!」
「…………? ああ。…………今日夕飯何がいい?」
「あっ、あっ、聞いてるぜ! お前らんとこ、神田がメシ作ってるんだって!?」
「何で料理人雇わないの?」

 …………そう言えば。

「いや昔はいたんですよ? 料理担当の使用人。…………女の人だったんで、師匠が」
「「「ああもういい、分かった。察した」」」

 …………手ぇ出したんだな。

「うちのコックはみんな男だけどなぁ」
「野郎の料理なんか食いたくねーって文句言うんですよウチの馬鹿師匠。シェフの大半は男性だっていうのに、相変わらず支離滅裂なんだから」
「…………え」

 …………あれ、俺もしかしてまずい事してたか?

「あ、神田は例外ですから。可愛い息子の作ったもんなら炭だって食べるでしょうよ」
「炭になんかしねぇよ…………」
「相変わらず自己中なおっさん…………」
「ジャスデビ、死にたくなかったらおっさんとか師匠の目の前で言わないで下さいね。額に風穴開きますよ」
「「…………」」
「…………で? 何がいい?」
「あっ、僕ハンバーグがいいです!」

 ってお前が答えるのか。
 …………一応客? のジャスデビに聞いたつもりだったんだが…………

「俺らは何でもいーぜ」
「居候だからねっ文句言わないよ!!」

 反対意見も出なかったので、夕飯はハンバーグに決定する。
 …………さて肉は何キロいるか…………

 車はいつも通り、直接家には戻らずに道途中のスーパーへと寄った。因みに言えば極々普通の一般常識に照らし合わせても適正価格なスーパーだ。
 そして俺達は降りて――――――
 早速後悔した。

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