「何だこれ? …………更衣室利用整理券?」
「ああ、それね」
  
 帰りのショートホームルーム。
 ついさっき、学内報委員会の奴が置いてったものだ。

「ドレスの子達は着替え大変じゃん? 着付けとヘアメイク、やってくれる専門の業者いれるから、順番に…………って奴さ」
「…………」

 俺は早速げんなりする。

「ヘアメイクって…………なんかベタベタ塗られるのか…………」
「ははは、ご愁傷様。――――――あ、最後の組さ。準備できるの舞踏会の直前になるさね」
「――――――…………」

 思わず溜息が漏れた。
 …………我ながら見苦しいとは思うんだが。モヤシ辺りは黙って女役に徹する訳だし。
 ただ、どうしても嫌悪感を拭えない。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃん」

 ラビが苦笑いで頬杖をつく。

「何事も経験さ?」

 ――――――それで割り切れたら、楽なんだがな。
 溜息をつく、そんなある日の午後――――――。








 
 ――――――数日後。

「正門にご来賓の方がお見えだ、直ぐに応対役は出てくれ!」
「はい、お世話様です。何処のクラスの業者の方ですか?」
「失礼致します、招待状の方拝見させていただいてよろしいですか?」

 空は秋晴れ。
 ――――――朝早くから生徒達の声が無線で行きかう。
 
「第146回仰友祭を開催いたします――――――!」

 講堂では開会式が執り行われ、副会長が開会を宣言する。


 仰友祭が、始まった。

 
 
 

 開会式が終わり、俺達は一度十字会館に戻ってきていた。
 これまたやたらと金の掛かってそうな装丁のパンフレットをパラパラ捲る。

「ユウ、どっから見て回る?」
「喫茶、喫茶、レストラン、花屋、演劇、映画上映、茶会、喫茶、チャリティーバザー、喫茶、喫茶…………喫茶ばっかりじゃねぇか」
「喫茶やり易いんだよね、国内外の有名パティシエとかショコラティエを招いて、一流の洋陶器メーカー…………ウェッジウッド、ロイヤル・コペンハーゲン、リチャードジノリ、バカラなんかの器で銘茶を、ってコンセプトさ。付加価値としてマジックショーや生演奏したり
するとこもあるけど」
「どっちみちうちは、其処まで文化祭自体は盛り上がらないんですよねー。元々来る様な人も来賓と卒業生や、系列の中等部や初等部の子やその男性親族位ですから」

 確かに、文化祭だというのに随分落ち着いた雰囲気だ。
 去年の前の学校の文化祭なんぞ、隣校のアホ共がバイクで校庭乗り込んできて大騒ぎになったな…………
 懐かしい思い出だ。

「いつも思うんだけどユウの通ってたとこ、どんだけ荒れてたんさ…………」
「怖いですよそれ…………」

 !?
 読まれたっ…………!?

「まー、それはともかく。ユウ、採点表持ってるね?」
「ああ」

 三年のみに配られる表。持ち点100を全出し物に振ることになっている。

「最優秀の団体には何があるんだ?」
「特に何も? 単純に名誉ってだけ」
「…………そうなのか」
「どうせならうちのクラスに入れてくださいよ」

 モヤシがそんな事を言った。…………いいのか、そういう依頼は。

「お前んとこは何だ? …………喫茶か。…………マジックショー?」
「あ、それ僕が出るんです。見に来て下さいね!」
「お前手品なんてできんのか」
「ええ。…………昔、教えて貰いました」

 モヤシは誰に、とは言わなかった。だが聞かずとも分かるそれに、俺はただ小さく頷いて答えた。






 早速自クラスの出し物の当番だというモヤシとは別れ、俺はラビと校内を採点表片手に歩いていた。

「アールグレイのお紅茶ありますよ。如何ですか先輩方」
「僕らが心を籠めて淹れてます、是非来てくださいっ!」

 玄関前、廊下など。
 到る所に客引き(多くは一年だった)が現れて、強引にならない程度に学生や客にチラシを手渡している。

「皆、頑張ってるさね」
「あっ…………ラビ様! 神田先輩も…………!」
「一枚俺にくれる?」
「はっ、はい、喜んで!!」

 ラビがチラシ配りの一年を一人とっ捕まえて、チラシを貰っていた。
 
「1−D、和風喫茶だって。いってみる?」
「お前の好きでいい。モヤシんとこはどこだ?」
「1−Aさ」

 見ない顔の人間が行き交う廊下で話しながら適当に行く先を定める。
 途中、ラビは何人かに挨拶されていた。

「今のが前の中等部の校長。さっきのは同窓会会長と副会長さね」
「へぇ…………」
「初めてだろうし人数多くて大変かもしれないけど、なるべく覚えといて? 俺等、理事長の身内だしどっかでこれから関わる人達だからさ」
 
 …………なんかじろじろ見られてたんだが…………。

「…………余計な事しそうな奴は俺らがどうにかするから」
「あん? 今何か言ったか?」
「ううん、何でもないさっ! さー見に行こう見に!!」
「うわ、押すなラビっ!!」
 

62へ
60へ

beautiful daysトップへ  



小説頁へ