「――――――ラビ」

 アレンが、俺を呼んだ。
 …………振り向くのに一瞬躊躇って、それでも俺はアレンのほうを向く。
 アレンは、真面目な顔を――――――少しだけ泣きそうな顔を――――――していた。

「僕は、本気です」
「…………って、何にさ?」

 ――――――本当はそんなこと、聞かなくても分かってる、けど。

「――――――神田のこと」

 ――――――来た。

「本気なんです。…………本当に好きなんです。兄弟、ですけど」
「――――――…………」
「だけど、本気なんです。――――――だから」

 アレンの目が、俺をじっ、と見据えた。
 俺の胸の内の僅かな動揺も何もかも全て見透かすようにして。

「応援してくれ、なんて言いません。――――――だけど、『そのつもり』がないなら、邪魔はしないで下さい」

 …………『そのつもり』? 
 そのつもり、って何さ?
 
「アレン、――――――俺は…………」

 ――――――俺は?
 俺は――――――…………

 さっきアレンが来なかったら、ユウに何て言うつもりだった――――――?

 壊したくない。
 暖かくて心地良いこの関係を。
 だけど、――――――少なくとも。アレンは…………ユウが好きなんだ。兄弟としてじゃなくて、家族としてでもなくて、一人の人として―――――――

「アレン、俺は…………」

 
 ガチャ


「ん? …………何やってんだお前等」
「何でもありませんよ、ね?」
「あ、ああ」
「? どうでもいいが…………行くんだろ? 何処からだ?」
「えーと、じゃあ…………」

 先程の真面目な顔を拭い去って、アレンが年相応の幼い笑顔で笑う。
 ユウと二人、パンフレットを覗き込んで楽しそうだ。
 その光景に感じるのは疎外感と寂しさ。
 
 頭が痛い。
 ユウとアレンのやり取りが、遠い遠い所の出来事のような気がする。 

 俺、は?
 
「―――――――…………」
「―――――――でいいか? …………おい? ラビ?」
「あ、ああごめんぼーっとしてた」
「…………お前さっきから変だぞ。熱でもあんのか?」

 つい、と指を伸ばしてユウが俺の前髪をくしゃり、と掴んだ。
 
「や、熱は―――――――、―――――――!?」
 

 こつん。


 ユウは、俺の額と自分の額をくっ付けた!!

「―――――――!!」

 ユウの顔がびっくりするくらい近い。
 目を閉じて唇を僅かに開いた表情はキスをねだられているようにも見えるのは俺のきっと勝手な思い込みで…………

「ない、か? ん…………熱い…………?」
「って何やってんですか神田! 熱計るなら体温計でしょう!?」
「んなもん此処にあるのか?」
「ありますよ! 救急箱の中に!!」

 …………アレンが無理矢理俺達を引っぺがした。名残惜しいなんて嘘だ。
 …………顔に血が上る…………。

「もう、そういう事僕以外にするの止めて下さい!!」

 …………おい、アレン。

「あ? なんでだ?」
 
 …………ユウ…………。
 鈍いのも其処まで行くと…………
  
「「馬鹿?」」
「なっ、何だと!?」
「「ぎゃー!!」」

 怒ったユウが、俺達を追っかけまわし始めた。俺達はそれぞれに声を上げながら部屋の中をバタバタ駆け回る。
 アレンなんか、捕まって殴られても嬉しそうだ。…………M? いやあいつドSだけど。床ヤクザだけど。

 そんな光景を目にしながら、上った熱が収まった頬に軽く触れて思う。
 もう少しだけでもいいから、こんな風に馬鹿やって、笑っていたい。

 ―――――――そう、思った。



  



「弟の初恋、応援できないのは辛い所さ…………」
「…………ふーん?」
「ちょ、真面目に聞けよティキー!」

 文化祭一日目を終えた俺達は、帰って来てから思い思いに過ごしている。
 ユウは、アレンに纏わりつかれてたからきっと一緒に居るんだろう。
 俺は、ティキのところに。

 ぷはー、と煙を吐いたティキは先ほどから生返事しかしないから少なくとも相談相手を間違ったことだけは分かるんだけど…………

「兄貴はこれだしアレンはあれだし!!」
「これとはなんだこれとは。…………あのさぁラビ、さっきから聞いてて俺思うんだけど」
「何?」
「お前、何に拘ってんの?」
「何って」

 弟が近親相姦願望持ってたら困るさ! 普通!

「俺達って腹違いじゃん? しかも神田なんてつい最近会ったばっかりな訳だし。そりゃそういう対象にもなるでしょーよ。―――――――大体さぁ、女の子じゃないんだから抱いたって子供もできやしねぇだろ? 本人同士合意の上ならいいじゃん」
「そういう問題!?」
「問題でしょ?」

 ティキが面倒臭そうに欠伸交じりに呟いた。

「むしろ問題なのはさぁ。そうやって理由付けて逃げようとしてるお前さんの方じゃなくて?」
「―――――――!」

 見透か、された?

「俺は、だって」
「認めりゃいいじゃん。何悩んでんの? 神田見て欲情したんでしょ? キスしたかったんでしょ? じゃーそれはそういう事なんじゃん」
「っ…………、」
「アレンは甘くないぜ? そんな最初の最初で躓いてたら―――――――入り込む隙も無い内に掻っ攫われて終わりだな」
「――――――…………」
「お前もちょっと考えたら? そうじゃないと…………後悔するぜ」
「――――――…………」

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