「あと十分かぁ」
「来賓の皆様がご休憩室からお見えになりましたが」
「じゃあ貴賓席通しておいてくんない? 後で頃合見計らって俺等挨拶行くから」
「了解いたしました」

 今は俺達はステージ脇の、役員用席にいる。
 
「ってお前等何で此処で踏ん反り返ってんのさ! 舞踏会担当学内報委員会!」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「働け!」
「本当ですよ」
「おわ、アレン!?」

 其処にいなかったはずのアレンの声に、俺達は振り向いた。

「お前それ…………すごいさ」

 アレンの白いドレスには、いくつものピンクの薔薇が飾られていた。本来は全員同じ形のものなので、これはオリジナルのアレンジらしい。

「全員と同じのなんてご免ですから」

 …………アレン独特の美意識だ。
 まだ成長期途中の小柄な身体を白に薔薇の、タイトなウェストラインの下にフルボリュームのスカートのボールガウンドレスで包み、腰に手を当てたアレンは顔の傷さえなければ何処に出しても恥ずかしくないご令嬢、といった風情。
 しかし本人はその出来映えにまだ不満らしく、

「本当は神田もお揃いにしたかったんですけど、どうにも時間が無くて…………」

 残念そうに呟いた。

「そういや、ユウ遅いね」
「最終の組でしたから。もうじきじゃないですか?」 

 途端にニヤニヤ笑うジャスデビに、アレンが眉根を寄せた。

「二人共、何をしたんですか?」
「おい…………」


『きゃあああああっ!!』


「「!?」」
 
 一部から、甲高い歓声が上がった。

「な、何さ?」
「何かあったんですかね?」

『ねぇ、凄いよ、見て…………!』
『うわぁ…………流石…………』
『何てお似合いなんだ!』

 入り口の方から完成と、ざわめきと、溜息のような声が次々に上がる。

「「??」」


 ―――――――そして数秒後、俺達はその理由を知った。


「…………あれ…………」
「…………お前等の仕業…………?」
「おうよ、絶対似合うと思ったんだぜ?」
「ヒヒッ、正解だったね!!」
 
 ―――――――其処に現れた人は、白と黒ばかりの会場の中で一際艶やかに咲き誇る薔薇のような、深紅の色を纏っていた。


 漆黒の髪を金に石の付いた髪飾りで結い上げ、薄く化粧を刷き。
 深紅に薔薇の誰とも違うドレスを纏ったユウは、無言で俺達を見据えていた。

「う…………わぁ…………」

 アレンが感嘆の溜息を漏らす。
 俺も全く同感さ。
 俺達が何かを言おうとした瞬間、


 ガッ!!


「「うわっ!」」

 ツカツカと歩み寄ってきたユウは(結構高いヒールなのに全然バランス危なくない辺りが凄い。流石だ)、いっそ無表情に近い貌で、ジャスデビの座る椅子の足を蹴った。

「…………てめぇら、後で覚えてろよ…………?」

 …………怖ぁぁぁっ!!!

 いつもより怒ってないように見えるけど、そこに含まれる怒気と殺気に、俺とアレンは肩を抱き合って震え上がった。なまじ美しい貌をしているから、凄艶というのがぴったりな感じだ。
 …………炎の色って、温度高い方が青かったりすんだよな…………。

「ジャスデビ」
「ご冥福を祈るさ」
「「勝手に殺すなっ!!」」
「ちっ」

 ユウは一際大きな舌打ちをすると、空いていた椅子に乱暴に腰掛けた。…………仕草まで完璧だったら本当に何処の夜会でも通用するご令嬢なんだけどなぁ…………。
 
「おー、すげぇなお前」
「ティキっ!?」

 不機嫌そうに椅子に腰掛けたユウは、その声にはっ、とした顔で上を仰いだ。そして二階貴賓席から見下ろしてくるティキに、目を見開く。

「お前、何でっ…………」
「ティキうちのガッコの役員なんさよ? 知らんかった?」
「…………くそ、あいつにまで見られた…………!」

 ユウがブツブツと下を向いて呟く。其処に含まれる不穏な調子に、つつつ、とジャスデビがユウから離れた。 
 
 ―――――――中央の大時計が、鐘を鳴らし始めた。

 ふっ、と照明が落ちる。

「会長」
「ほいさ」

 呼びに来た進行役の奴に促され、俺は一人、ステージの上に上がった。 
  

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