「…………何やってんの?」

 俺が貴賓席に戻ると、クロスとアレンが何故か向かい合って――――――しかもアレンはクロスの膝の上で――――――凍っていた。
 アレンはまだしもクロスまで凍るってのも珍しい。つか何やってんの。

「…………いやぁ、そう来るか、と思いまして…………ははは…………はーはーはー…………」

 アレンが乾いた笑い声を上げる。

「…………降りれば?」
「そ、そうですね」

 俺がそう言うと、はっ、としたようにアレンがクロスの膝から降りた。

「…………天然だからタチが悪い」

 ボソッ、とクロスが呟く。

「?」

 話が見えない。が、まぁ、何となく、「天然」って単語が出てきた時点で神田が絡んでるんだろうなぁ、ってのは察した。さっき此処から降りてきてたし。
 …………いいや、あとで聞いてみよう。アレンと神田、二人に聞いたらきっと大層な見解の違いで面白い話になってるに違いない。
 アレンも曲が始まる、とホールに降りて行き、俺は持っていた二つのシャンパングラスの内片方をクロスの前に置いた。

「さっき神田と踊ってたじゃん。何、コムイセンセーに取られてムカついた?」
「余分な虫はつけないに限る」
「虫って…………神田男の子だよ? そりゃまぁ此処だとアッチの手合いが付くけどさ」
「んな事は分かってる」
「――――――母親似だから?」
「――――――、」

 俺がそう聞くと、明らかにクロスの動きが一瞬止まった。

「そっくりだしねー、ホント。俺が見たのはガキの頃だけど。――――――キレーな人だったもんねぇ」
「…………お前がアレを見た事があったか?」
「俺ガキの頃何度かうちに来てたじゃん。お袋が一緒にいた時は絶対出てこなかったけど、俺一人の時はお菓子とか貰ってたよ」
「…………」

 ――――――たった一人。たった一人だけ、あの屋敷に住むことを許された女。それは実質、妻としての扱いを受けていたって事なんだろう。
 だからこそ、「特別」。

「でもさー、神田はお母さんじゃない訳だし。つか男だし。――――――あんまり面影重ねんのもどーかと思うけど俺」
「んな事は、俺が一番分かってる」
「あ、そ。差し出がましい事を申し上げました」

 慇懃無礼に腰を折ってやるとクロスは渋い顔をした。
 クロスの顔なんぞ見てても楽しいことはないので、俺は間も無く三曲目のダンスが始まるホールを見下ろす。
 ジャスデロは相変わらず中心付近で二人、アレンは三年の奴と組んでこっちも中心付近。紅いドレスの神田は――――――右端の方にいた。相手は見たことのない、多分三年の奴。クラスメイトか何かだろうか。
 ――――――で、ラビは、相手がいなさそうな壁際の奴らに声を掛けていた。ダンスアテンダントは大変だ。

「そういえば」

 ――――――クロスのいつも通りのダルそうな声。

「あの二人はユウに懸想してるようだが」
「あー…………」

 あの二人、が誰を指してるのかは考えなくても分かる。自覚ありまくりで現在押しまくりのアレンと、無自覚だけど多分その内暴走しそうなラビの事だろう。

「まーアレンは神田の嫌がるような事はしないと思うし。…………ラビも大丈夫だと思うけどね」

 というか聞く所による神田の腕っ節の強さなら多少誰かが血迷っても叩きのめして終わりだろう。
 
「まぁそれもだが。…………んで? その『二人』が『三人』になる可能性はあんのか?」
「…………」

 おっと。
 意外なとこを突いて来た。

 ――――――俺は振り向いて、不敵な笑みを浮かべるクソ親父に、おんなじような笑顔で答えた。

「さーね」

72へ
70へ

beautiful daysトップへ  



小説頁へ