入れ替わり立ち代わり、色んな奴らと踊った。
 俺は全然順番なんぞ覚えちゃいなかったが、相手の奴らはちゃんと把握しているようで、あっちから声を掛けてきたから助かった。
 …………合間に休む暇さえなく、踊り続けていた俺はふと人が途切れたのに気が付いた。まぁ40曲近く、毎回相手がいる訳じゃねぇ。 これ幸いとばかりにホールを抜け出し、二階に上がり(父上も含めて誰もいなかった。何処行ったんだ?)、貴賓席近くのバルコニーに出た。
 背の高い手摺と柵に体を預けて、暗い中庭と校舎を眺める

 …………夜風が頬を撫でて行く。
 熱く火照った頬に冷たい夜風が気持ち良い。

 時間は既に九時を回っていた。という事はこの馬鹿騒ぎは十二時までなので全体の半分位は終わったって事だ。
 
 …………何か取りに行くか…………。

 料理、飲み物等は一階ホールの隅にコーナーがあって、持っていけるようになっている。踊り疲れたり腹が減ったりしたらそこで貰ってその辺に適当に出てる椅子に座るかして食えって事らしい。
 腹はともかく、喉が乾いた。

 踵を返そうとした、その時。

「――――――ユウ」
 
 聞き慣れた声の奴が、俺を呼んだ。






「――――――あ?」

 ラビは、グラス二つを持ってそこにいた。
 俺が振り向くとにこっ、と笑って寄ってくる。 

「何やってんだお前? ダンス何とかじゃないのか?」
「ダンスアテンダントね。…………ちょっと休憩。疲れたさ」
「鍛え方が足りねぇ」
「そういう問題? …………はい、ウーロン茶だけど」
「悪ぃな」

 渡された冷たいウーロン茶を、一気に呷った。

 …………生き返る。

 俺達は二人、柵に体を預けやはり暗い中庭を眺めながらぼーっと夜風に身を任せていた。

「ねー、ユウ」
「何だ?」
「後半、空いてる?」
「…………ダンスのか?」

 俺はかなり本気で考えた。(一々誰といつ、なんて覚えてねぇ)

「最後から二、三曲はな」
「じゃあさ、その時――――――俺と踊ってくんない?」
「あ?」

 何言ってんだ?
 
 俺はラビを見た。
 …………ラビはまだ正面を、中庭を見下ろしながら――――――だけどそこにいつもと少し違うような同じような、やっぱり違うような色を滲ませながら、続けた。

「駄目?」
「別に…………構わねーけど。何度も言ってるが俺は上手くはねぇぞ」
「ありがと。…………大丈夫、俺ちゃんとリードするさ!」 

 ラビがニッ、と笑った。
 俺達は暫く其処で体の熱を冷ませてから――――――再びホールの中へ戻った。
 
  
 
 
  
 

「神田、落ち着いて、早いステップですが僕を良く見て合わせて下さい」
「んな事言ったってな…………! うわっ!!」 

 やたらと早い音楽に乗せて、大きく動く。間違いなく難しいんだろうその踊りに(クイックなんとかつってた)、俺は必死にモヤシに合わせた。

「上手いですよ、でももうちょっと落ち着いて。音楽を聴いて、情感的に」
「無茶言ってんな! んな余裕があるか!」

 ホール中央から隅まで、一気に駆けるようにして移動する。…………ダンスなんざ鈍い動きのばっかりだと思ってたのに…………!
 隣や背後の奴とぶつかりそうになるし…………ほんっとに格闘系だなこれ!!
 …………ラビに言えたもんじゃなかったな…………。

「次のターンでフィニッシュですよ、合わせて!」
「っ、」


 ダンッ

  
 一際大きい、何処からも揃った足音が響き、一瞬の間を置いてから参加してなかった奴らからの拍手が鳴り響いた。
 ペアを組んでいた奴らも組んでいた手を離し、腰を折って互いに挨拶している。  
 俺達も手を放して――――――いや、俺が放そうとして、しかしモヤシが手を放さねぇ。

「おい? 終わったんだろう?」
「…………ええ」

 モヤシが淡く笑う。
 …………?

 俺が首を傾げる間に奴は手を今度こそ放し、ドレスの裾を摘んで腰を折った。

「ありがとうございました」

 …………ああ、そうやるのか。

「…………」

 俺も一応見よう見真似で其れを真似る。
 女用の礼儀作法なんか知るか。
 だがその瞬間、


 パシャッ


「!」

 カメラのシャッター音に、体が固まった。
 慌てて振り向くとそこにいたのはカメラを構えてはしゃぐジャスデビの姿。

「見出しはアレだな、赤と白の薔薇、華麗なダンスを披露! か」
「いいねいいね! 流石デビ!! ヒヒッ!」
「おいおいそんなに褒めるなよ相棒」

 …………。

「おい、お前ら…………」

 そういえばこいつらへのお礼参り、まだだったよな…………。
 しかも今のこの所業。 


 パキッ、

 
「今すぐ俺にそのカメラごと渡すか…………」
「「ひっ」」


 カッ…………

 
 俺は奴らにゆっくり近付く。
 ――――――そして、唇の端だけで笑った。


「それともボコられるんのか、どっちか…………選びやがれ!!」
「ひぃぃぃぃ! 選べとか言って全然選ばす気ねぇじゃんっ!」
「ぎゃー!!」




 ――――――ジャスデビの悲鳴が、長く長く響いた。


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