「なんか揉めてたの?」
「モヤシがガキみてーな事ごちゃごちゃ言ってたからだ」

 戻ると、一階のダイニングにいたラビが読んでいた雑誌から目を上げて俺に尋ねた。

「…………ふーん? で、俺達どうしよっか?」
「どうするもこうするも…………」

 …………俺達いつも休日何してたか?
 ――――――ああ、そうだ。最近はずっと文化祭の準備で休みも何も無く毎日学校に行ってたから思い当たらないんだ。

「どっか行きたいトコとか、見たいトコとかある?」
「…………特にねぇな」

 俺は言いながらラビの正面に座った。

「映画でも見に行く?」 
「なんか面白そうなのやってるか?」
「アクション系だったら公開前から話題になってるのがー…………」



 かくして俺は、ラビと映画を見に行く事になった。



 車で10分位走ると、街中に出る。
 俺達は駅の程近くで車を降りて車を返し、ラビの先導で目抜き通りを歩いた。
 大きなターミナル駅の為、駅前も栄えている。休日である事も手伝ってか、人はかなり多かった。
 家族連れも多いが、同じくらい目に入ったのが恋人同士だと思われる奴等だった。

「おいラビ」
「何さ?」
「…………お前、彼女とかいねぇのか?」
「ッ、ゲホッ、ガホッ!!」

 俺がそう訊くと、ラビは激しくむせた。何だ? どうしたんだ?

「…………何で?」
「いや、何となくだが」

 …………あの学校は男子校だが、見た感じラビは女に人気がありそうなので、外にいるのかと思って訊いてみただけだ。
 もしいるようなら、あんまり休みの日に連れまわしたり連れてもらったりするのは悪いしな。

「…………特にいないさ」
「へぇ」

 そうなのか。少しばかり意外だ。まぁ別にどうでもいいけどな。
 ―――――――が、さっきから、女だけの連中がチラチララビを見ている。
 まぁ、目立つ奴だし理由も分からなくも無い。
 いっそ少し離れてやれば声掛けたそうな奴等も喜ぶんだろうが、悪いが一人で此処から帰るのはちょっと面倒だ。俺がもっとこの辺の地理に明るくなったらな、と不特定多数の奴等に心底適当に心の中だけで詫びる。
 そうこうしている内に、ラビが大きな建物の前で立ち止まった。

「此処さ、ラッキー、あと十五分で始まるって」
 
 待たなくて良くてラッキーだ。

「大人二人分で」

 ラビがチケットを買っている間、俺は上映中の映画のラインナップを見上げていた。
 子供向けのアニメと、恋愛モノが2つと、ホラーと、俺達の見るアクションのだ。
 ぼーっと見上げているとチケットを買い終えたラビが俺の手を引いた。
 
「ユウ? 他にいいのあった?」
「いや、特に」
「そう? じゃ、行こっか」

 …………そして俺達は薄暗い館内へと入った。




 中は八割くらいの人入りだった。
 適当に真ん中あたりの一番通路側の席が空いていたのを見つけ、其処に座る。
 間も無く始まった映画は―――――――まぁ話題作ってだけあって、それなりに面白かった。(少なくとも居眠りしない程度には、だ)
 
「ユウ、面白かった?」
「まぁまぁな」
「はは、良かったね。…………どうしよっか、夕飯食べて帰る?」
「…………だな」

 二人分位、作ってもいいが面倒と言えば面倒だ。
 
「何食べたい?」
「何でもいい。お前の好きでいい」
「んー、じゃあ…………」

 映画館を出て歩きながら、ラビと適当な会話を交わす。
 …………ふと見上げた空が、随分と暗い。

「おい、雨振りそうだぞ」
「あ、ほんとだ。早いところどっか入っちゃって帰ったほうがいいかも」

 ポツ、ポツと灰色のアスファルトの上に黒い染みが出来始める。

「うわ、言ってる傍から…………ユウ、行こ!!」

 ラビは俺の手を取って、走り出した。
 

 
 

 結局俺達はイタリアンの店に適当に入り(中は女連ればっかりだった、正直居た堪れなくなる)、それぞれ好き勝手に注文し(やっぱりモヤシ程じゃねぇがラビも結構喰うよな)、それらを満喫してから店を出た。
 時間は七時半とかなり早いが、食べ始めるのが早かったからな。
 俺達が店から出た瞬間、


 ゴロゴロゴロ…………


 遠くで獣の唸り声のような、雷の音が聞こえた。

「うわ、雷来てやがる」

 これはきっと今夜は大雨だな。

「ラビ、早めに帰ったほうが…………、おい、ラビ?」
「あ、ああうんごめん、そうだね」

 隣を向くとラビはぼーっと薄暗い空を眺めていた。
 …………?

「今車呼ぶから」

 言いながら携帯を取り出し、短縮番号で掛け始める。
 その動作を見守っていた俺は、小さく感じる違和感に首を捻った―――――――。
 
  

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