「ユッ…………ウ…………」

 …………?
 何だ?

 目を覚ますなりその瞳を精一杯大きく見張って硬直するラビに此方が面食らう。

「…………っ、」

 更には俺の背に回された奴の腕が震えだした。

「っ、ごめんっ、俺、俺っ…………!」
「ごめん、て…………何がだ?」

 謝られる心当たり…………まああるといえばあるが。

「何一人でテンパってんだお前?」

 呆れて問いかけると、え、と小さくラビが呟いた。

「…………俺、ユウに酷い事したんじゃ…………」
「酷い?」

 何がだ?
 一晩中人を抱き枕にした事か?
 確かに何処と無く肩が凝ってはいるが、それだって別に酷いって言う程じゃねぇ。
 
「…………何の事だ?」

 聞き返すと――――――目に見えて奴の腕の力が、抜けた。

「――――――、良かった…………、ヤッちゃったのかと思った…………」
「やる? 何をだ」
「…………何でもないよ、ユウ。それより…………おはよ」
 
 ラビが、ようやく笑った。 

 まぁやっぱり、馬鹿兎は笑ってんのが一番だ。うん。










「ね、ねえユウ。一個お願いあんだけどさ」
「?」
「…………一緒に寝てたの、秘密にしといて? 特にアレンには…………」

 …………バレたら、今度こそ本当に去勢されるかもしれない。
 イマイチ俺が何をしようとしてたのか分かってなさそうなユウはともかく、その話をアレンが聞きつけたら。
 当然俺のしようとしてた事なんてすぐさま察するだろう。
 ――――――そんな事になったら男としての人生の終わりさ!!

「…………、まぁいいけどな」

 その返事にほっとした俺は、続いた台詞に苦笑するしかなかった。

「十八にもなって雷怖くて一緒に寝て貰いました、なんて恥ずかしくてしょうがねーだろうしな」

 …………まぁ、あの時あの瞬間の「抱く」は別の意味の「寝る」と同義の、セクシャルな意味だったんだけどね…………

「ユウ、俺雷が怖いんじゃないんさ」


 ――――――こんなにも穏かな気持ちで、自分の根幹に関わる話をする時が来るとは思わなかった。


「俺ね、雷に嫌な思い出があるんさ。それを思い出すのが嫌なんさ」
「嫌な…………?」

 ユウが不思議そうな顔をする。そうだろうね、きっと。

「――――――俺、雷の鳴ってる時に死に掛けた事があるから」
「――――――、」

 ユウが、目を見開いた。

 俺はユウが口を挟む隙を与えないようそのまま早口で続ける。

「いやー、子供の頃の話なんだけどね。意識が遠くなって体が冷たくなるのが分かって、心臓がやたらとバクバクいってんの。で、耳にはその心臓の音と雷の音だけ聞こえてたっていう…………ちょっとした臨死体験?」
「、何があったんだ?」
「…………それは秘密。まぁともかく、その時の事思い出しちゃうからどうにも雷の音は嫌いなんさ」 

 軽く言ってから、ユウの視線を避ける為に背を向けてシャツを脱いだ。
 ついでに思い出して、謝っておく。

「それにしてもごめんね、狭かったでしょ」

 がっちりホールドしちゃってたみたいだから、随分寝苦しかった筈だ。

「…………別に、平気だ」

 ユウが静かにそう言って――――――続ける。

「おい」
「何?」

 そして、優しい、労わりを滲ませた声で、ユウは言った。



「…………また雷が鳴り出したら俺のとこ来い。――――――鳴り止むまで傍にいてやる」



 その言葉に俺は――――――背を向けたまま目を見張って、
 そして胸に満たし始めた感情に、其処で初めて名前をつけた…………。

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