咄嗟に神田を強く抱き寄せてから、俺は侵入者に視線をやった。
「…………何?」
そこにいたのは、忌々しい母の従姉、の娘。
…………両の目に涙を湛えて、そこにいた。
「っごめんなさいっ、母が…………」
「――――――君の所為じゃないよ」
それだけは心からそう言った。悪いのは彼女じゃなく、その母親だ。
「熱かった、ですよね、…………ごめんなさい…………」
遂にはぽろぽろ涙を溢してその場で泣き出してしまう彼女に、背中のファスナーを下ろしている為振り向けない(振り向いたら真平らな胸を晒す事になる)神田が、顔だけ向けた。
「大丈夫…………、です」
ついついいつも通りの返事を返そうとした神田が慌てて取ってつけた様に語尾を入れる。
その言葉に涙を拭った再従妹は、
「あの、替えのお洋服…………此処に置いておきますから」
そう言いながらミントグリーンの服を近くの棚の上に置いた。
「…………それ、君の?」
「はい」
うん、そりゃ、まぁ。
気持ちは嬉しいんだけどね…………。
小柄な彼女の服、神田が着れるとはとても思えないんだけど…………。
――――――どっちみち服の必要があるし、…………もう親戚達と顔を合わせたく無い。
「ねぇ。…………皆に伝えといてくれる? 暫くちょっと、野暮用で戻れないって」
――――――言いながら俺は、神田の髪を一房取って自分の口許へ運び、下げたファスナーの中へと手を忍ばせた。
…………其れを目の当たりにした彼女は真っ赤になって、
「わ、分かりました! …………どうぞ、ごゆっくり、」
慌ててドアを閉めた。
再従妹がいなくなった事により体を離した神田は不思議そうな顔で、
「おい。…………野暮用って何だ?」
「あのね、神田…………」
…………いいとこの箱入り令嬢よりも尚色事に疎いってーのは、十八歳男子としてどうなの?
僅かに呆れを滲ませて溜息をつくと、神田はむっとした表情を浮かべた。
馬鹿にされたと思ったんだろう。―――――――馬鹿だとは思ってるけど馬鹿にしてる訳じゃない。
「一体どういう育ち方するとこういう子になるんだろーな…………」
「何だよ、馬鹿にしてんのかっ」
ふと思いついて、思いつきで訊いてみる。
「ねぇ神田。―――――――赤ん坊が何処から出て来るか知ってるよね?」
…………あ、やべ表現が露骨過ぎたか?
しかし神田は怒るでも無く、きょとんとした顔で、
「あ? 頭からだろ?」
「―――――――っ」
―――――――え!?
何言ってんのこの子!?
まさか、キャベツやコウノトリレベル…………!?
馬鹿だとは知ってたし、晩生で、恐らく性経験も無いってのは分かってたけど、そう来たか!?
頭って何、頭がぱかっと開くって?
うわグロい。それ怖すぎる。
―――――――そんな下らない事を考えていた俺は、続いた神田の台詞に思わず転びそうになった。
「足から出てきたら逆子じゃねーか」
「…………」
…………おや。
「あ、ああ…………そっちの意味ね」
…………そう取ったのか…………
「そっちって他に何が…………、…………、…………!!」
―――――――まさに一瞬の事だった。
一瞬でさっ、と顔を真っ赤にした神田が―――――――俺に殴りかかってくる。
「〜〜〜〜〜〜ってめぇ!! 人に何言わせようとしてやがる!! この変態野郎!!」
「うおっ」
拳が風を切る。
…………あー良かった、流石に性教育位はまともに受けてたみたいだ。
一瞬、ベッドのお誘いする前におしべめしべで子供の作り方教えなきゃいけないのかと思った…………。
「待てっ、この変態っ」
「違う違うって! 神田様ギブギブ!!」
俺が拳を振り上げる神田から逃げ回っていると、
―――――――ガチャ。
再度、ドアが勝手に開かれた。