「ねー、何やってんのぉ?」
そこにいたのは飴を銜えた小娘。
「ロード?」
「追いかけっこ? もっとヤる事あんじゃなーい? せぇっかく大きいベッドのある部屋だってーのにさ」
…………やる事?
…………着替え?
「ロード、おまー…………何処にいたんだよ?」
「意地悪なオバサマに苛められたからー、泣いてた」
「うんほーそーか。んで本当は?」
「ティッキーったらぜぇんぜん信じてないでしょー」
ケラケラ笑うロードが、ふと俺を見てニヤリ、と笑った。
「その格好。悪く無いけど、色々まずいんじゃなくてぇ?」
「…………、!」
…………いつの間にか。
後ろのファスナー全開だった所為で肩は落ち、俺は上半身諸肌脱ぎの格好だった。
はっ、として胸を思わず腕で覆うも時既に遅し。
「『やっぱり』男だったんだぁ」
「やっぱりって…………気付いてたのか? ロード」
「んー、何か違和感あったしぃ。それにジャスデビが散々喚いてたんだよ。ティキに神田って名前の超美人の弟がいた! って」
やっぱ違和感あるんじゃねーか、馬鹿ティキ。
「それにしてもさぁ、火傷大丈夫?」
「あ、ああ。大した事じゃねぇ」
「あのクッソババア、全力で振りかぶって投げてたもん。つーかあいつこそホントに何? ヒンセーとかヒンカクとか、あのババーに言われると意味不明なんだけど」
…………振りかぶって…………。
想像すると何かシュールだ。
「へー、やっぱあのババアなんだ」
「あったりまえじゃん」
ティキの声が低くなる。
何だと振り向くと、ロードと向き合ったティキが、―――――――冷ややかな、冷え切った笑みを浮かべていた。
一瞬、背中が冷えた。
「…………さー、どーやって落とし前つけて貰おうかな…………」
「お、おいティキ。仮にも女相手だ、乱暴な真似すんなよ!?」
こいつらは女子供相手でも容赦無さそうだから怖ぇ。
「生物学上はメスってだけじゃん。…………っていうかー、落とし前ならもうつけた」
「「?」」
ロードはゆっくりと俺達の方に寄ってくる。そして、
「これ、なーんだ」
…………奴の手にあったもの。
それは、大きめのネジだった。
「…………何だ、それ?」
俺がそう訊いた瞬間―――――――
『きゃああああああっ!!』
ザブンッ
「「!?」」
外から派手な水音と、悲鳴が聞こえた。
「あははっ、成功成功♪」
ひょいひょい、と歩くロードがカーテンを細く開けて、中庭を見下ろす。俺達も其れにならって上の隙間から覗いた。
…………中庭にある池の畔。其処においてあった椅子から、誰かが転げ落ちて池へ―――――――って。
椅子、バラバラじゃねぇかあれ。
…………っつー事は。あのネジって…………椅子の?
「ゆっくり腰掛けてればあんな事にはならないのにねぇ? 色々、やり直した方がいいよ絶対ぃ」
ロードがケラケラ笑う。
…………池の中に落ちたあのばーさんは、池が深くないんだろう、溺れてこそいなかったが手を貸している人間に錯乱しながら何か怒鳴っていた。
髪も崩れてもう色々滅茶苦茶だ。
「ぷっ、あはははははっ! ロード、最高!」
…………ティキが笑いながらロードに親指を立てる。
「人の未来のお義姉様に怪我させたんだからアレ位当然でしょぉ?」
お義姉様って…………その設定何時まで引きずるつもりだ。
「ま、それにしても…………どっちみちあれならすぐにお開きになりそうだし…………皆帰ったら俺等も帰ろうぜ、神田」
「ああ」
今更だが濡れて肌にへばり付く布地が気持ち悪い。
とっとと家に帰って風呂でも入って着替えたいところだ。
「?」
―――――――微かに喉に感じる違和感に、首を捻り。
そして俺達は、帰途へとついた。
「お帰りなさい、ティキv」
家に帰るなりそこで仁王立ちしていたのは、片手にバリカン片手に脱毛剤を持った、アレン。
「ロードから全部聞きましたよ? ええ、色々凄い目にあったとか」
カツン、
アレンが一歩を踏み出した。
それに応じて俺も思わず一歩下がる。
「ところで僕が昨日言ったこと、覚えてますよね?」
カツン、
また一歩。
―――――――冷ややかな目の笑ってない笑顔で、アレンは。
「さぁ。―――――――覚悟してくださいね」
―――――――家の中に、俺の絶叫が響き渡った…………。