「…………」
缶詰の果物いくつかだけ食い、再び眠りに落ちたユウの、規則正しく上下する薄い胸にヤマは越えたかと安堵した。
…………幾ら見てても飽きねぇってのは、俺にしちゃあ珍しい事だ。
大概、どんなに美しい女でも数時間顔を付き合わせれば飽きが来る。
ふと落とした視線の先。
――――――ユウの薄青の夜着は、見ただけでそうと分かるくらい寝汗に濡れていた。
いくら空調を高めの温度に設定しているとはいえ、これで体に良い訳がない。
「…………」
踵を返して向かうのは部屋の隅。ワードローブを適当に漁ると、直ぐに替えの夜着が見つかった。
しかし、まぁ、質素なワードローブだ。
…………欲しい物は、何でも買って構わないと言った筈だが。
夜着一着とタオルを引っ掴み、ベッド際に戻る。
今着ているものを脱がそうと、上のボタンを全部外したそんな瞬間に、
「ただいm…………ってししょ――――――!!!!!」
…………そんな最高のタイミングで、両手に大荷物を抱えたアレンが帰ってきた。
「ななな何やってんですかぁぁぁぁっ!!」
「少なくともお前が想像したような事じゃねぇよ」
大声を張り上げながら足音荒く入ってきた馬鹿息子に俺は眉根を寄せた。――――――ユウを起こす気か。
「そんな事言って…………あ、」
直ぐ近くまで寄ってきて、其処で俺が手にしていたタオルと夜着の存在に気付いたらしい。
「汗かいてるようだからな。着替えさせようとしただけだ」
「そ、そうだったんですね」
「ったく…………下半身に意識行きすぎだお前は」
コレに関しては余り人の事を言えた身分でもないが。
「そんなの師匠に言われたくありません。師匠に似たんです。…………でも最近、ぱったり行かなくなりましたよね?」
「? あ?」
「女の人の所。前は一ヶ月ずっと渡り歩いてたりしてたじゃないですか」
…………ああ。
そう言えばそうだ。
…………何時からだ?
アレンの声が僅かに低くなった。
「そんなに、この家が居心地良くなりました?」
「―――――――…………」
何時から、だ?
「…………。ところで、その大荷物は何だ」
「これですか? 材料です」
「何のだ」
「おかゆです!」
「…………」
堂々と胸を張るアレンに、僅かに頭痛を感じる。
「…………作れるのか?」
「どうにかなりますって」
…………そして歩み寄ってきたアレンがユウの顔を覗き込んだかと思うと…………、そのまま頬に口付けた。
「、」
「…………早く元気になってくださいね」
心底愛おしいものを見つめるようなその眼差しに―――――――胸の内が、ざわついた。
「ただいmってうぉ! 何これ!?」
…………帰宅して早々。
一階のリビングに漂う黒い煙に俺は目を見張った。
出所はキッチンだ。何とも形容しがたい、生き物として脳が拒絶する焦げた…………を通り越した、臭い。
「あ、ティキお帰りなさい」
そこから、ひょっこりアレンが顔を出した。
「ちょ、アレン何こ…………れ…………」
そして覗き込んだ先。
―――――――その先のキッチンの惨状に、俺は声を失った。
ドサッ
肩に掛けていたショルダーバックが、床に落ちる。
こ、れは…………
「いやぁ、上手に出来ないものですねぇ。神田の料理、見てたからどうにかなるかな、って思ってたんですけど」
一言で言えば、キッチンは―――――――カオスだった。