保育園の保父母の仕事というものは、文字通りの意味で戦いだ。
やんちゃ盛りの子供達を、危険の無いように常に気を配り続けなければならない。
しかしそんなハードな戦いに身を置く戦士達にも、休息の時間はあった。
昼食後暫くしてからのお昼寝タイムがそれだ。園児達を一箇所に集め、布団を敷いて、園児達が寝付いたら一人見張り代わりに置いて他の職員は職員室に引き上げる。
「はい、神田。ブラックでいいよな?」
「ああ、悪いな」
ティキから渡されたマグカップに口をつけた神田はふぅ、と溜息をついた。
園児達の登園時間から今の今まで、時間を確認することすら忘れてしまいそうな忙しさだったからだ。
「蝋花が休みだって?」
「ああ。熱が下がらないらしい。暫く休ませると連絡があった」
「流行ってるよなぁ。うちのクラスも三人くらい休んでるぜ。それに…………」
神田とティキ、二人は同時に振り向く。
其の先にあるのは無人の机。
しかしながら其の上には書類が鎮座している。しかも、相当な高さのものが。
「リナリーも、まだ治らないらしいな」
…………園長コムイが、妹リナリーの体調不良の為と休みを取り初めて早一週間。
休みなのは構わないが、仕事は溜まる一方だ。人事ながら、大丈夫か、と言ったところ。
現実問題として、養護院に住み込んでいるコムイはリナリーの世話と学校から帰ってくる子供達の世話で手一杯の筈だ。
しかし、此処に居る誰もコムイの仕事を代行することが出来ない。
「そうだねぇ。来週のお泊り会までには治るといいんだけど」
養護院付属の保育園という特性を活かす為、この保育園では二ヶ月に一度、園児達を養護院に宿泊させる。
それは園児達の為でもあるが同時に世間からは斜めに見られがちな養護院の事を保護者に知ってもらう為でもあるのだ。
「そういや、次のそれ…………夜勤お前だろ」
「そう。まぁ、しゃーないわな」
この保育園の職員の多くは、養護院の職員をも兼ねている。
毎日誰か一人は必ず養護院の方で、コムイの補佐をしながらの泊り込み夜勤をするのだ。
お泊まり会では通常院にいる子供達に加え、更に園児達を迎える以上当然夜勤の人間の負担は大きい。
三人体制になるがそれでも、一睡も出来ずに朝になった、なんて話はザラにある。
「俺は休みか…………」
「久し振りにダンナと仲良く出来んじゃん?」
「うるせぇ」
ゴンッ
ニヤニヤ笑いながら余計な事を言ったティキに神田が鉄拳制裁をかます。
「いててててっ! 間節が、関節が!!」
…………痛い所にクリーンヒットしたらしい。
のた打ち回るティキを放置してマグカップの中身を啜っていた神田は、
「神田先生、ラビ君がぐずってます」
「…………今行く」
休息時間を打ち切られ、直ぐに向かったのだった。