『…………で、ですってば!』
『…………が、…………だろうが、』
『す…………、…………ない、』
声の主は誰か、多分クロスと話しながら段々こっちに近付いて来ている。
『も〜、反省してますってば!』
声がドア一枚隔てた辺りから聞こえてきて、
ガチャ、
そして開かれた。
「「…………」」
俺達は互いに互いを呆然と見ていた。
そこにいたのは、若い男。白い髪を長く伸ばした、若い、多分大学生くらいの男だった。
「…………へ?」
…………弟…………にしちゃ、似てない感じが…………、
「貴女…………は…………、…………、……………………!? ○×△■%&Σ!?」
暫く俺を呆然と見ていたソイツははっ、とした顔をして、たった今入ってきたばかりなのに凄
い勢いで部屋から飛び出していった。
ドアが開け放たれていったので今度は奴とクロスのやり取りは筒抜けだった。
「しししし、ししょー!? あのお嬢さんがまさかっ…………!?」
「なにがまさかだ、まさかもへったくれもねぇ」
「は、は、犯罪だ――――――!! ああマナ、どうしましょう! どんな事があっても師匠が
犯罪にだけは手を染めないよう見張ってきたつもりだったのに――――――!」
し、師匠? マナ?
「何が犯罪だ、ありゃもう十八だ。嫁にこれる歳だろう」
「そりゃそうですけど、まだ未成年じゃないですかっ!! 師匠自分の年齢分かってます!?
しかもあのお嬢さんの制服、師匠の学校の制服じゃないですか!! 何生徒に手ぇ出してるんで
すかっ!!」
「おい、濡れ衣だ。まだ出してねぇ」
…………。
こういう時、どういう顔すればいんだろうな…………。
「騒いでないでとっとと来い。これ以上待たせるな」
クロスと、それから白い髪の男が来た。
「? 何床に座ってんだ」
「あ、これ柔らかくて気持ちいいから、」
「…………、まぁ好きにすればいいが…………」
クロスと話しながらも、俺はクロスの後ろにいる男が気になってしょうがない。
また突然叫びださないだろうなこいつ…………。
「馬鹿が騒がしたな」
「馬鹿って酷くないですか!?」
やっぱり騒いでるし…………
「アレン、とりあえずお前もその辺座れ」
「…………はい…………」
アレン、と呼ばれた白い髪の男は何やら色々言いたそうな顔で、それでも言われたとおり俺の
向かい側の床に座った。
「何でお前まで…………」
「レディーを床に座らせてソファーにふんぞり返るなんて出来る訳ないじゃないですか!」
何だこいつ。
クロスはソファーに座った。
俺の真向かいに座った男は溜息をついてから、異様な程の親しみを浮かべた笑顔で俺に笑いか
けて自己紹介する。
「初めまして、アレン・ウォーカーと申します」
「あ、俺は…………神田ユウ、だ、…………です?」
俺も思わず釣られるようにして自己紹介し、互いに頭を下げあった。
次に頭を上げて目を合わせたアレンとやらは、先程の笑顔は何処に行ったと聞きたいくらい1
80℃違う表情、悲壮な顔をして深く深く溜息をつく。
「ああああ…………こんなに若くて可愛くてぴちぴちな子が師匠のお嫁さんになるなんて………
…ティキの様子から嫌な予感はしてたんですが本当にこの世界には神も仏もいませんね…………
」
何だそりゃ…………
しかし嫁とか言われるとアレだ、中々に気恥ずかしい…………。
「やかましい」
ゴッ!
「!」
「いっ…………だ、」
「つまんねぇ事言うからだ」
透明なガラス製の灰皿が宙を舞いアレンの額にヒットした。かなり重い音したぞ今…………
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫です…………うぅ、」
「クロス、」
咎める為と質問の為、両方の意味を籠めて奴を呼ぶと、クロスは肩を竦めてからあっさりと言
い放った。
「そいつは俺の息子だ」
「…………は?」
……………………、何だと?
初耳だぞ、そんなの。
「人聞きの悪い事言わないで下さい! ええと、ユウちゃんでいいですか?」
「『ユウちゃん』だ?」
「…………すいません。じゃあ神田さんでいいですか師匠」
俺が気色悪い呼び名に抗議する前にクロスからチェックが入った。
「神田でいい…………」
「そうですか? ではお言葉に甘える事にしますが…………僕と師匠とは血は繋がってませんか
ら、安心してくださいね。…………まぁ師匠と結婚したら戸籍上は僕の母親には当るんでしょう
けど…………」
「…………、」
説明を求めてクロスに再度視線を向ける。
「…………そいつの親が俺の昔馴染みだった。それだけだ」
それだけ、って、それじゃ分からんがな…………。
でも少し良かった。これで若い頃に作った息子だとか言われたら少し立ち直れなかったかもし
れない。
「だから師匠、僕の養子縁組解除して下さいよ。神田が可哀相じゃないですか」
…………え?
「新婚早々に、義理の、しかも自分より年上の息子がいるなんて気の毒ですって。だから、」
「やかましい」
ゴッ!
再度鈍い音がした。
「お前を面倒を見るのはマナとの取り決めだ。お前がどうこう言う権利があるか」
「って、面倒って。僕はもう子供じゃありません!」
「ほー、働きにも出ずに学校に篭る奴がガキじゃねぇと。大口は自分の食い扶持自分で稼いでか
ら言うんだな」
「うっ…………」
?、??
「…………何やってるんだ、ですか?」
「いいですよ、気を使って話してもらわなくても。極普通の大学院生です」
院生…………。
「何処の…………?」
「××国立です」
「!」
それは此処からそれなりに近い国立大学だ。というか、先日俺が受験した俺の第一志望校だ。
そのことを伝えるとアレンは破顔した。
「ああ、そうなんですか! じゃあ春からは後輩ですね」
「いや、受かってるかどうかは…………」
大分背伸びした学校だからな…………。
「まだそんな事言ってんのかお前は」
クロスが眉根を顰めた。
「お前併願してねぇだろうが。…………まぁ落ちたら専業主婦になるっつーなら、それもいいが
」
「良くねぇ!」
勝手に人の将来設計立てるな!
「まぁそこはともかく…………僕は此処でますよ、新婚生活に他人が要るのは無粋でしょう?
ねぇ、神田だって嫌でしょう?」
「お、俺か?」
アレンはそう言い俺を見る。クロスも俺を無言で見てきた。
二人分の視線にたじろぎながらも、思った事をそのまま口にした。
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