「別に、嫌じゃない」
「気を使わなくても良いんですよ?」
「本音だぞ」
別に、いたからどうって事はないだろう。そもそも、
「俺が入ってくるせいでお前が出てくなら、結婚自体考え直す」
「ちょ、ちょっと待ってちょっと待って! やめて下さい僕が師匠に殺される!!」
俺の宣言に顔色を悪くしたアレンが慌てて取り縋ってきた。腰に抱きつかれて前につんのめる。と、クロスが足でアレンの頭を蹴った。
「あんたもそういうの止めろよ」
こういうの虐待って言わないか?
クロスは俺の制止など全く意に介した様子は無い。笑顔でアレンの頭をグリグリしながら、
「だ、そうだぞアレン。コムイの新薬実験台か、俺の的か、どちらか選びたいのか?」
「どっちも嫌です!!」
「あ、でも流石に人前で母さんって呼ばれるのは厳しいが」
家の中でならいいが、外で呼ばれたら物議を醸すだろう。
「呼びませんって…………」
ぐったりと手を床についたアレンが俺の腰から手を離した。
「…………伯母さん達には」
「先に言ってある」
「何であんた俺に最初に言わないんだ」
別にいいが、少し腑に落ちない。
口をへの字に曲げて半目で睨むとクロスはわざとらしく視線を逸らした。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ…………」
アレンが呟いた言葉の意味は、何となくしか分からない。多分、周りから懐柔しろとか、そんな感じなんだろう。多分。
「まぁ、そういう事だ」
「一応聞いとくぞ。俺が嫌だって言った場合はどうするつもりだったんだあんた」
「お前は言わないだろう?」
「…………」
…………畜生。見透かしてやがる。
産みの親を亡くした俺には、恐らくは俺と同じ境遇だろうアレンにそれは言えないだろうと、そういう事だろう。
「そうむくれるな」
素早く顔を近づけたクロスが、俺の頬に唇で触れた。
思わず目を閉じる。
数瞬の後離れてから目を開けた。…………人の悪い笑顔のクロスと、呆然としたアレン。アレンは小さく「やっぱり犯罪だ…………」と呟いた。
「美味いものでも食わせてやるから機嫌直せ。何がいい」
「じゃあ蕎麦」
俺の返事に、クロスとアレンが顔を見合わせた。
「蕎麦…………」
何だよ、美味いだろ蕎麦。
「出前…………? ですかね?」
「何処かに店もあるだろ。知らねぇが。探してくるか」
腰を上げたクロスが部屋から出て行った。電話帳でも見てくるのか?
「…………そういう所が、師匠が惹かれたところなんですかね…………?」
「?」
アレンの言葉に、ドアに向けていた視線をアレンに向ける。
「ああ、いえ、その。方向性が違うなぁ、と」
「これまでのあいつの女と、って事か?」
「…………あー、はい。まぁ」
…………。
まあ同居してれば、そりゃ知ってるよな。
単純に好奇心が湧いてきて、少しアレンににじり寄った。
「な、何ですか?」
「どういう奴だったんだ? あいつの昔の恋人って」
「え、えー…………」
「別に、クロスにお前から聞いたとかは言わないぞ?」
「いや、普通こういう話ってあんまり聞きたくない類じゃないです?」
何故か額に汗を浮かべたアレンが話を逸らそうとする。
「別に、嫌も何も。だってあいつと俺の歳の差考えたら、いて当たり前だろ? しかも学校で女好きで有名だったんだぞ」
「ししょー…………」
アレンが天井を仰いで、目元を掌で覆って溜息をついた。何やってるんですか、と呟いてから、
「…………オフレコですよ?」
「勿論」
「基本的には派手な美女。ブロンドが多かったですかね。グラマーで、食事だったら間違いなくフレンチかイタリアンのフルコースを希望する人。プレゼントはブランド物のバックかジュエリーじゃなきゃ認めない、男の価値は顔とお金が全てなタイプ」
「金が掛かりそうな奴だな」
思った事をそのまま口にすると、アレンが苦笑顔で頷いた。
「ええ、まぁ。師匠の脛齧ってる僕が言える事じゃないんですけどね」
「取り敢えず俺には当て嵌る所が思い当たらないんだが」
「だからこそ、かも知れませんけど。ぶっちゃけ師匠がロリコンだとは思いませんでした。成熟しきった女性にしか興味が無いものだと」
「ロリ…………」
確かに結構な歳の差なんだが、ロリコンは言い過ぎじゃないだろうか。俺は幼女じゃない。
俺が生まれた時にあいつが何歳だったかは考えないようにしておく。
「…………益々疑問だ。何であいつ、俺がいいんだ?」
「さぁ、それは分かりませんけど…………」
そこで言葉を切ってから、アレンが小さく笑った。
「だけど、良かった、と」
「?」
「師匠は僕がいる所為で結婚を諦めてた所もあったんじゃないかな、って思ってたので」
「いや、単にあいつが遊びたかったからじゃねぇのか?」
「…………冷静ですね神田…………」
でも多分俺は間違ってないと思う。
「そういう所もポイントだと思いますよ」
「そうか?」
「そうですよ」
アレンが笑うから、俺も釣られて少し笑った。
暫くした後戻ってきたクロスは、何処でどう聞いていたのか俺とアレンの会話をしっかり把握していて、またアレンを蹴飛ばした。
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