今日は授業がない。卒業式の予行練習(なんでこんなものが必要なのか、何時もながら心底不思議だ)に半日費やし、後はホームルームだけだ。
 そんな気楽な日程だが、それと関わらず今日は朝から気が重かった。
 何故なら今日は…………

「今更そんな死にそうな顔したところでどうにもならんぞ」

 合否発表日だからだ。高校を特待扱い、試験無しで入った俺には初めての事だ。

 今日も俺の弁当を食べたクロスは呆れたように言うが、だからと言って気は紛れない。
 仰ぎ見た壁掛け時計の時刻は12時55分。…………結果発表は13時丁度からだから、あと少しだ。
 昼休みはあと二十分程だが、とてもじゃないが弁当なんぞ喉を通らない。

「まぁ駄目でも気にするな、主婦になればいいだけだ」
「あのな…………」

 その人生設計はどうなんだ…………。

「どう足掻こうがあと少しだろう。落ち着け」
「…………」

 パカ、と開いた携帯の画面には既に受験番号を打ち込むことで合否判定が出来る大学のウェブサイトに繋いである。流石に受験番号位は覚えているから、時間になったら入れればいい。
 じー、と画面を睨んでいるとクロスが小さく吹き出した。

「笑うなっ!」

 これでもこっちは必死なんだよ!!
 …………まぁ確かに、今更必死になったって意味無いのは分かってるけどな。
 無意味に携帯を閉じたり開いたりする。

「あ」

 何度目かに開いたとき、丁度右上に小さく表示されている時間が13時になった。

「…………」

 小さく息を止めて、覚えている数字を打ち込む。ボタンを押して――――――

「…………」
「受かってるか?」
「…………」
「まぁ主婦でも構わんだろう。大学に行くだけが人生じゃねぇしな。どうしても行きたいなら来年も――――――」
「…………ってる」
「あん?」

 画面に表示されているのは合格、という文字。
 思わず最初の画面に戻ってもう一度受験番号を入れ直してみた。結果は変わらない。

 画面を覗き込みに来たクロスが驚いたように眉根を上げた。

「マジか」
「マジ、らしい」

 暫く俺達は顔を見合わせ――――――

「他人の番号じゃねぇのか?」
「てめえぇぇぇぇ!!」

 俺も一瞬考えたけどな!? っつーか担任がそういう事言うか普通!? さっきも俺が落ちたの前提みたいな事言ってやがったし!

「冗談だ。本気で合格するとは思わなかった」
「お前…………」

 確かに無理だ無謀だ考え直せ、って結構言われたが…………。俺もちょっと無理かもしれんとも思ってたが…………。
 やばい。達成感が凄い。思わず口元がにやける。

「…………そうか。受かったか」

 クロスは笑うと、俺の頭に手を伸ばした。そのまま髪をグシャグシャにされる。

「何だよっ!」
「良かったな」
「…………」

 …………何つー顔で笑うんだ。

 ちょっと恥ずかしくなって視線を逸らした。顔が紅くなる。

「しかし…………これで子作りは最短四年延期か」
「!!」

 子作りってお前…………。今さっきとは別の理由で顔が熱くなったぞこの野郎!

「所で、連絡しなくていいのか」
「あ」

 そうだこいつとこんなどうでもいい話をしてる場合じゃなかった。
 伯母さん達に、それから教科で特に世話になった先生達に…………

 …………ああ、そうだ。

「クロス」
「あん?」
「ありがとう、ございました」
「…………」

 一応、こいつにも世話になった。
 一応だけどな、一応。

「礼なら体でしてもらいたいもんだ」
「お前…………」

 ああもう、こいつは…………。

 思わず脱力したのも、仕方ないだろう。それを狙ってやったかは、甚だ疑問だが。
 溜息をついて、それから戦勝報告の為、メール作成の画面を立ち上げた。




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