『仰げば尊し 我が師の恩 教えの庭にもはや幾年――――――』

 あっという間に、卒業式だ。
 来賓と、保護者と、教職員。それから在校生と俺達卒業生。
 全員で体育館に集まって、卒業証書を貰った。各クラス校長から手渡されるがその隣には担任がいて校長の補佐をしている。クロスが非常にぞんざいな態度だったのは言うまでもないがもう誰も気にしちゃいねぇだろう。俺もしてない。
 俺の番の時、クロスと俺にしか聞こえないように校長は声を潜めて、

「君もまぁ…………色々と大変だろうが、頑張りなさい」

 そういや校長、何でこいつの首切らなかったんだろうな…………。

「…………はい。ありがとうございます」

 証書を受け取って段を降りた。席に着く一瞬、クロスと視線があった。お前、俺見てる暇があったら次の奴を見てろ。

 恙無く式は終わり、教室に戻る。
 最後のHRだがそこでもクロスは相変わらずだった。
 多分卒業生が出るたびに同じこと言ってるんだろうと思わせるような淀みない「最後の言葉」を言ったクロスは、手を上げて、

「それじゃあ精々気張って生きろガキ共。沈みたくないなら必死にやれ」

 そんな事を言って出て行った。
 …………HRに保護者を参加させず、謝恩会も無いこの学校のシステムは実に理に適っている。心底そう思う。

「おい、神田」
「?」

 ふと名前を呼ばれて振り向いた。大して喋った覚えもない同級生だ。勿論男。名前は覚えていない。

「何だ?」
「いや、お前さ。…………クロス先生と結婚するってマジなのか?」
「…………」

 あー…………。
 壮大などっきりじゃない限り、マジなんだろうな。
 伯母さんがこの間招待状送ったとか言ってたし。

「まぁな」

 頷くと、俺達の会話を注視していた奴らが溜息と悲鳴の中間みたいな声を上げた。

「? それがどうしたんだよ?」

 俺が結婚しようが何しようが、こいつらには関係無いじゃねぇか。

「あー…………やっぱ本気でそうなのかよ…………」
「いや聞いちゃいたんだけどな、あんまりマジだと思ってなくてよー…………」

 …………?

「俺ら、ずっと神田がこのクラスで女子一人だからクロス先生が気ぃ使って色々してると思ってたんだけどさ」
「マジなのかぁ…………」

 溜息をつく野郎共。
 何でこいつらがこんなに溜息付いてるんだ。付きたかったのは去年の春の俺だ。

「こんなんなら先に告っときゃよかったわ」
「…………は?」

 …………何だって?

「睨み合ってる内に先生に取られるなんて虚しいよなー…………」
「確か、手ぇだそうとした奴内申盾に脅されてなかったか?」
「あ、それ俺だわ」

 …………はい?

「えげつねー!」
「先生相手じゃ敵わないよなー」

 …………はぁ?

 何言ってんだこいつら。
 唖然と辺りを見回す。何でこんな最後の日にこんな冗談を? あれか、逆に気を使ってるのかコレは?
 仮に本気だったとしてもそういう事はいまさら言われてもな。

「でも何で唯一の女子を先生が持ってくんだよー!」
「卑怯だー!」

 …………なんだこの騒ぎ。

「で、さ。これから皆でカラオケ行ってオールしようぜって話になってんだけど、神田も来るだろ?」
「え」

 どこをどうしてそうなる。
 同級生達に期待の目で見られて、動揺した。
 オールって、徹夜だよな…………。

「いや、あの…………」

 えーっと。


 ガラッ!!


「「「「「!!!」」」」」

 うわ! なんか戻ってきやがった!?

 クロスは普通に教室に入ってくると、取り囲まれた俺の前に立った。全員がザッと道を開ける。

「言い忘れた。明日は七時に迎えに行く」
「は?」
「遊びにいくなとは言わんが、羽目を外すなよ。…………あとお前ら、人のモノに手ぇ出すのは十年早い」

 周囲を一瞥したクロスは俺の後頭部を押さえて――――――キスしてきた。
 
 同級生の悲鳴みたいな声といろんな声が脳裏を過ぎっていった。こ…………いつ…………。
 ああああもう周りの顔が見れねぇ。無理だ無理。
 今日で顔を合わせるのは最後であろう奴らばっかりだったことに多少安心した。


 結局俺は一応参加はしたものの早い時間に帰った。
 明日何処連れていかれるか分からないしな。

 …………つか本当にどこ連れてかれるんだろうな…………。




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