昼休み。
 同級生は別のクラスの友人の下へ行ったり、早々に食べ終わって出て行った。
 俺は一人でぼんやりしながら機械的に箸を動かす。
 余り親しい人間もいないので、一人の昼食は最早恒例だった。

 ガラッ

 誰か戻ってきたのかと緩慢に視線を巡らせた俺は、目を見張る羽目になった。
 其処にたっていたのはクロス先生。咥え煙草で、コンビニの物だろうかかつ丼を手にしている。
 しかも妙に格好をつけたような立ち方で…………

(…………何処から突っ込むべきか、あるいは突っ込んでいいのか…………)

 そのまま先生は俺の前まで来たかと思うと、隣の奴の席にドカッと腰掛けた。

「? あの、先生?」
「お前、メシ食うダチもいねぇのか? 寂しい奴だな、俺が一緒に食ってやる」

 頼んでねぇし!!

「いや、あの…………?」
「何だ、何か文句あるのか?」

 ある。といえば、ある…………か?
 いや、特に無い。多分だが、教師は研究室か職員室でメシを食えなんていう決まりはない(と思う)はずだ。

「いえ、特に…………」 
 
 俺がそう答えると、先生は割り箸を咥えて二つに割った。
 さっさと自分の食事を始める先生に俺はこれ以上話しかける事は無理と早々に判断し無言で食事を再開した。
 と思ったら、

「弁当か。…………母親か?」

 何気に俺の弁当箱を覗き込んだ先生がそう聞いて来た。

「いえ、自作ですが。それに母親はいません」

 そう答えると、先生が少し目を見張った。

「というか両親いません。伯母さんのとこにお世話になってます」

 目を見張った先生まま、しばらくしてからああ、と頷いた。

「それでお前、此処に来たのか」
「はい」

 正直言えば全く頭がついていけないこの学校。
 けれど女子剣道部に二年間在籍すれば三年間学費が無料になるという特待生の話は魅力的だった。
 ただでさえ居候の身、伯母さん達に掛ける負担は少なければ少ないほどいい。
 
「ふむ…………しかし自作か…………」

 弁当に戻るのかよ!!
 俺が若干叫びたくなったのをぐっと堪えていると、一人で納得したように頷いた先生が宣言した。

「よし、神田」
「はい?」
「お前明日から俺にも作って来い」

 俺は一瞬自分が日本語が理解できなくなったのかと思った。

「…………はぁ? 嫌です」
「一つ作るのも二つ作るのも一緒だろ」
「受験生にそんな事やらせないで下さい!」
「受験生? 就活生じゃなくてか?」

 こっ、…………この野郎!!!

 人を殴り倒したくなったのは久しぶりだ!

「いい加減コンビニ飯も飽きた。この俺がメタボになんぞなったら国家的損失だろ?」
「意味分かりませんが」

 勝手にメタボでも何でもなってろ!!

 そんな俺の内心の叫びを感じ取ったのだろう、クロス(呼び捨て決定)はにやり、と人の悪い笑みを浮かべた。

「その代わり俺が昼飯の時間勉強見てやる。どうだ、悪くないだろう?」
「う…………」

 俺は一瞬考え込んだ。
 現状俺は余り余裕が無い。志望先に合格するには多分一日二十時間勉強しなければ難しいだろう。



 ――――――翌朝、俺は二人分の弁当を用意して学校に向かった…………




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