翌日登校してすぐ、俺はあのやたらと目立つ紅頭を探した。
そいつは予想通り相変わらず酒と煙草の匂いを振りまきながら、研究室で椅子を倒して寝ていやがった。
俺はクロスにつかつかと歩み寄る。
「…………先生」
「……………………」
「起きて下さい先生、話したいことが」
「……………………」
ピキッ
俺は、脳の血管が切れた音を感じた。
元々俺は気が長いほうではない。
ただ暴力沙汰はこの学校に来て早々にやらかしてしまって以来自重してきたのだが…………
ドゴッ!!
俺は、思い切り、クロスの眠っていた椅子をクロスごと蹴り倒した。
椅子が机に当たり上に乱雑に置かれていたファイルやら教科書やらがバラバラとクロスに降りかかる。
俺は腕を組んで、それらを見下ろした。
「ったく、何だ乱暴だな」
クロスはそういうと大してダメージを受けた様子も無く、あっさり立ち上がった。
結構いい音してたんだが。
「何だじゃねぇ何だ、じゃ」
俺は低く吐き捨てる。
これまではどんなに問題教師だろうが教師は教師、教えを請う者としての最低限の礼儀は守って来たが、流石にもうそれも無理だ。思う存分、地で行く事にする。
「てめぇ、よくもあんな下らねぇ事抜かしやがったな!!」
「下らねぇ事…………?」
はて何の事か、といった様子で腕を組んで考える様子のクロスに俺は尚も言い募る。
「昨日のテメェの下らねぇ冗談だ! 何が結婚だ!! ふざけんな!! 冗談も大概にしやがれ!!」
「ああ、あれか」
「あれか、じゃねぇ!!」
冗談にも程がある。
怒りの余り震えが止まらない俺を、クロスはふん、と鼻で笑った。
その態度に再び俺の血管が数本ブチきれる。
再度怒鳴ろうとして口を開いた瞬間、俺は目を見張った。
「てめっ…………、!!」
突然抱き寄せられ、俺はバランスが取れずに相手の胸に身体を預ける格好になる。
驚いて固まっていると、クロスの野郎は俺の耳元に低く囁いた。
「…………冗談じゃねぇって、分からせてやろうか」
「――――――!!」
其の声の低さと、籠められた熱に俺は思わず身体が先程とは別の感情に震えた。
慌てて乱暴に相手の胸を突いて飛び退る。
こ、こいつ…………やっぱ危ねー奴じゃねーか…………!!
本能的に身の危険を感じた俺は踵を返して研究室から走り去った。
この時期の授業は重要だというのに、授業内容がちっとも頭に入らない。
現実感の無い夢でも見てるみたいだ…………
あ の 野 郎 の 所 為 で !
実際夢の中にいるのかもしれない。全部全部、俺の性質の悪い夢…………
…………。
それはそれで何か腹立つ…………。
――――――後でもう一度、聞きに行くか…………
などと考えていたが、良く考えたらそうだ。
俺達は昼飯を一緒に食ってたんだった…………と思い出したのが、クロスがいつも通り俺の前に堂々と座って弁当を要求したその時だった。
「…………先生」
「あん?」
「先に言っとくけど朝の事は謝りません。…………で、何であんな性質の悪い冗談なんて言ったんですか」
「…………」
クロスは、ふー、と溜息を付いた。
最早俺には怒る気力がない。
黙って続きを待つだけだ。
「…………何でだろうな」
「?」
「俺はもっとナイスバディな派手な美女が好みなんだが」
イラッ。
「先生の好みなぞ知りませんが」
「おい勘違いするな、最後まで聞け。――――――だが」
だが?
だがって何だ?
「お前の事は気に入った。俺のものにしたい」
…………。
……………………。
………………………………。
マジか…………?
俺はこの時、最早何も言えなくなっていた。
本気か冗談か計りかねるクロスの言動。
理解できない現状に、俺は助けを求める事にした――――――。