ああ、デジャブ!
人波に流されて行ってしまうユウの手を慌てて掴んだ。
只今のシカゴ空港は、天候不良による飛行機遅延の影響で大変な混雑です。
ボストンまでの乗り換えの為にと降り立ったシカゴ空港。日本を発ってから既に十二時間近くが経っている中での大変な混雑に、既にユウは疲れ切った表情だ。
「大丈夫?」
「ああ…………」
右手で大きなキャリーバッグ、左手でユウを半ば引きずるようにして何とかターミナルまで逃げてきた。
日本国内にも近年山ほど店があるお馴染のコーヒーショップでアイスコーヒーを二つ買って、片方をユウに渡す。
「ブラックにしたけどいい?」
「ん、悪い」
ふう、と息をついたユウは何もつけていないのに綺麗な珊瑚色の唇で緑色のストローを銜える。それを何とはなしに見てから自分も一口。冷たいコーヒーが疲労と人混みの熱気にやられた体に染み渡る。
これまた遅延している乗り継ぎ便の予想出発時刻は二時間後、飛行時間が大体二時間半だから…………ボストンに着くのはもはや夜中だ。コーヒーもいいけどこれは何か軽く腹に入れておいた方がいいかもしれない。機内食の衣がしんなりした天麩羅と汁を吸いきった蕎麦、やたらとカタい寿司というビミョーかつ炭水化物推しの和食にやられたユウには厳しいかもしれないけど。
「ユウ、何か食べとく?」
「いらね…………さっきのがまだ…………」
げんなりとした表情のユウに苦笑して、自分だけでもとファーストフードの看板を探した。
予想通りボストンのローガン空港に着いたのは日付が変わる直前だった。
遅延の影響もあるのか誰も彼もが疲れた顔。デスヨネーと頷きつつ、これまた疲れを通り越してグロッキーなユウを励ましてバゲージクレームで荷物を受け取る。ユウが言うにはセキュリティチェック手前まで両親が迎えに来てるらしい、まぁこの時間だしユウは外国に出るのは初めてだというから妥当な判断だ。
散々待たせているからと時間を気にする顔のユウだけど、まぁしょうがない。天候不良が原因なんだし。
しかしセキュリティチェックを抜けた先も出迎えだかこれから搭乗の客だかで一杯だ。此処から探し出すのはユウには至難の業かもしれない。
「ユウの両親ってどんな人?」
「俺は父上に良く似てるって言われる」
オーケー。じゃ、そういう人を探そう。――――――って、いた。こっち見てる。
…………なんだろう、俺めっちゃ睨まれてるんですけど…………。
「ユウ、あそこ?」
「あ」
まだきょろきょろとしていたユウの肩をつついて、見つけた方向を指し示す。ほっとした顔をしたユウは、小走りに駆け寄っていった。
――――――成程、お母さんよりはお父さんに似てる。つまりユウの家は祖母さん→お父さん→ユウで顔の遺伝子が継がれてるわけだ。
感心しながら離れたところから眺めていると、ユウが振り返った。俺を見て、小さく手招きする。ニコニコしているお母さんはともかくお父さんは眉根に皺を寄せていた。うーん、ああいう表情するとますます似てる…………。
若干不穏な物を感じつつ、俺は応じて三人の下に寄った。
「ユウってホントにお父さん似なんさねぇ。お父さん髪長かったらもっと似てるかも」
「だろ?」
さてちゃっかりと俺はユウのお父さんの運転する車に乗っけてもらってたりする。
助手席にお母さん、後部座席に俺とユウ。ちなみに俺の住まいはユウがこれから両親と住むコンドミニアムの直ぐ隣の部屋だ。そういう風に手配した。お母さんは「凄い偶然ねー」とかニコニコしてたけど、お父さんは「そんな訳あるか」と不機嫌そうに呟いて、お母さんに脇腹に肘鉄を入れられてた。あ、はい、偶然じゃないです。ユウのトコに来てたエアメール読んで住所把握してました。隣の部屋が空いてたのだけは偶然です。
しかし初対面から一時間も経ってないのに俺は既に三回ユウのお父さんに「帰れ!!」とか言われてたりする。帰れって、何処に?
疲れているユウはやがてうとうとし始めた。時折俺の肩に凭れ掛かり、その度にはっ、として顔を上げる。
「いいよ、寝ちゃえば? 俺は眠くないし」
「大丈夫、だ、」
言ってる端から瞼が下りてきている。笑って、ユウの肩を引き寄せて近づけた。肩にユウの頭が来る。
そうしてぴったりくっ付いているとバックミラー越しに殺意の篭った視線が飛んできた。…………怖いので目はあわせないでおく。
「度胸のある子ねぇ」
どこか感心したようなユウのお母さんの言葉に、さてどっちの事言ってんだろうなぁ、なんて考えた。
そしてユウが完全に寝入った後。
俺はユウのお父さんから延々と「正しい男女交際のあり方」と「婚前交渉の禁止」について語られて思わず遠い目になったりしたりした。