さて勿論ユウのお父さんは俺とユウの泊りがけの、しかも国外への旅行なんていい顔をしなかった。成人してから流石に午後七時が門限なんて事はなくなったけど、相変わらずユウのお父さんがうるさ…………もとい厳しいのは確かだ。これを考えると高校生だったのあの時は、ユウは存分に羽を伸ばせてたんだろう。お祖父さんとお祖母さんというお目付け役がいたと言っても、さ。
 それでも何とか同意を取り付けてこれたのは、お母さんの強烈なプッシュと訪ねる先である友人のアレンがユウが女の子だと知らず、知らせる予定もまだ無い事があったからだった。それからユウ曰く、厄介な立場のアレンへの同情のようなものも若干あったのだろうという。何でもユウのお父さんとお母さんも結婚するまで、そしてユウが産まれるまでには一悶着も二悶着もありその手の厄介事には辟易させられたらしい。
 まぁともかく何とか出発にこぎつけた俺達は、ボストンを後にした。

 フルフラットのシート、機内食はコース仕立てで何回でも食べられる、アメニティが各種。ついでにアルコールも良いものが揃ってる。
 モニターでは名作やら新作やらの映画やゲームが流れ、体感時間としてはあっという間にロンドンに着いた…………と思ったら空港内でのスパ。
 渡米してきた当初のとんでもなく大変だった旅(あれは勿論エコノミーだった、ユウの家はお金があっても贅沢するのを良しとはしない)とは違い、無駄に至れり尽くせり感のある空の旅を終えて到着したヒースロー空港のラウンジ(アレンの家がよく使うからだろうか、何故かビジネスの搭乗客だったのに通されたのはファーストクラスのラウンジだ)ではお勧め扱いのローストビーフに心惹かれないでもなかったけど、アレンの実家についた後ディナーがあると思えば今から腹に溜まるものは止めておこうとシャンパンに手を伸ばす。ブリティッシュエアウェイズのサービスは世界でも指折りだ。ビジネスでこれなのだからファーストクラスならもっと凄いんだろう。俺は密かに新婚旅行にはブリティッシュエアウェイズのファーストクラスを使ってみようと心に決める。ユウはスパを受けられる事に驚いて(ご丁寧に到着時間にあわせてアレンが予約を入れていた、男性二名で予約が入っていたのはまぁ仕方ない。予約ミスのような顔をして入った)、ラウンジで少し軽い物を摘んだ後は疲れた様子で俺の隣でうとうとしている。アレンからの迎えが来るまでは此処で待機だ。
 もう少しだけ何かとって来ようかと立ち上がった時、マナーモードにしてある携帯がブルブルと震え始めた。

「お、来た」

 直ぐに応答する。

「アレンー?」
『あ、ラビ。今何処ですか?』
「ラウンジの中さ。ユウもいるさぁ」
『僕今ターミナルの中に入りましたけど』
「分かった、んじゃ出るわ」

 俺がアレンと話していると眠気も覚めたかユウがこちらを見た。
 
「モヤシか」
「うん」

 軽く伸びをしてから立ち上がる。白いシャツにブラックデニムと久しぶりの男の服だ。元々許されたとはいえフェミニンな服装は好まないユウだけど、やっぱり男物は形が違う。因みに胸は晒しだ、折角最近自由に出来てたのに窮屈で可哀相だけど…………。

「背の事突っ込んでくると思うか?」
「多分ねー…………アイツ身長伸び悩んでたのコンプレックスっぽかったし」

 二人で立つと、俺とユウは昔ほど目線が近くない。当たり前だ、ユウの身長はもう伸びていない。それでも170cmギリ後半(正確には175cmだ)あるから、かなりの高身長だ。最も当人は若干伸びすぎだと思ってるらしく、身長を申告するときには「大体170」って言っている。…………俺が背ぇまだ伸びてて良かった、余り気にさせないで済む。
 シークレットシューズを履いて誤魔化すかどうか最後まで悩んで結局止めた。女装(ってのも変な話だ、ユウ女の子だし)させられる可能性が高く足元だって変えざるを得なくなるだろう。そうしたらおかしな事になる。
 ラウンジから出て探すと、アレンの白い頭は直ぐに見つかった。近くに二人、スーツ姿の男が控えている。
「…………あれ」
「ん…………?」

 あれ、何だか…………。
 軽く目を擦ってみる。が、変わらない。そうしているうちにスーツ姿の内一人が俺達に気付いたようでアレンに何事か耳打ちする。するとアレンはパッと振り向いた。

「ラビ!」
「アレン、お前さん…………」

 でっかくなったなぁ!
 昔はユウにチビって言われる程度には差があったのに、もう殆ど変わらない。ユウもアレンがデカくなっているとは考えていなかったらしく――――――とはいえ人種と年齢を考えれば当然だけど――――――少し驚いたように目を見張っていた。

「久しぶりですね、――――――ロンドンへようこそ」

 にっこりと笑ったアレンが両手を広げて唄うように言った。その笑顔、一見にこやかな好青年風だけどその実中身が真っ黒な表情に、早くもユウはドン引きした顔をしている。

「積もる話はありますが、とりあえず僕の家行きましょう」

 

 

 


 案内されたのはロンドンの高級住宅街の中にある、大通りに面したタウンハウスだった。アレン曰く19世紀初頭に建てられたもので比較的新しいのだという。
 19世紀で新しいんかい、と思わなくも無かったけどよく考えたらユウの家なんてもっと古い。新築マンションに住んでいた身としては次元が違う。
 中では何人もの人々が忙しく働いていた。

「使用人?」
「じゃないですよ、パーティーオーガナイザーと出入りの業者です。このご時勢にこんな小さな家にまで使用人なんて雇ってられませんって」

 小さな、とは言うけど地下一階地上四階立ての建物は別に小さくない。それに今までの口ぶりと昔聞いた話によればどうやらアレンの家族達は領地のマナーハウスで暮らしているらしいから此処は殆ど使われていないんだろう。嘗ての大貴族と呼ばれる家であっても没落し、先祖伝来の家屋敷をリゾートやらに手放すことが多い時代だ。タウンハウスとマナーハウス、両方を維持しながら保有できるというのは相当の事だろう。ユウは少しだけ離れたところで家具調度や動き回る人々を眺めている。

「…………んで、これからの予定は?」
「ディナーの時間に合わせて僕の親類縁者が此処に来ます。後は神田を見せてお察しにしようかと…………日本人の恋人がいるって触れ込んでますので」
「察してくれんの? それにバレやしない?」

 因みにあえて「何が」なんて言わない。大嘘もいいところさ。

「大丈夫でしょう、身長伸びて180cmとかあったらどうしようって思ってましたけどアレもう全然ですね」

 ふっ、と笑みを浮かべたアレンが言う。そこはかとなく漂わせる優越感に、うーんユウはもう伸ばしたくないみたいだけど…………と苦笑いだ。

「まぁどうせ飲んで飲んで飲んで話して終わるパーティーですし、神田には言葉全然わからないふりでもしてもらいましょう」







 アレン成長。
 この話における身長はアレンは公式の最新174cm、神田嬢は初期の175cmという設定。殆どもう変わらない。




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