「お前は先に行ってろ。もう大分遅刻してるからな」
さて、大学卒業直前の今一時帰国している俺達は、アレンとジャスデビに顔をあせようと誘った。
俺達から誘って時間指定しておいて遅刻だ。慌てて待ち合わせに場所と指定したファミレスに駆け込んだ。
Eメールや電話のやり取りはしょっちゅうだけど、ジャスデビと実際に会うするのは二年半ぶりさ。アレンは一年半位だけど、それでも長く続いている成長期は侮れない。
人って結構変わるから探すのに苦労するかもなぁ…………
そんな事を思いながら、自動ドアを抜ける。
まぁ派手なカラーの奴らだし、髪でも染めてなければ何とか行けるかな…………?
「おーい! 此処だぜ此処ー!」
「ちょっ…………デビット大声出さないで下さいよ。注目浴びてるじゃないですか」
…………心配は杞憂だったみたいさ。
奥の方の席で、俺を見つけてブンブンと手を振るデビット。その隣には何時も通りジャスデロ、その向かい側にはアレンが居た。
「いや、悪ぃさね待たせて。んでも久し振りさぁ!」
言いながらアレンの隣に座る。
「元気そうですね」
「マジでな。何年ぶり? つかおせーんだよお前ら」
「ごめんって。二年半ぶり。前はお前らの卒業式の直前だし。何だかんだで中々会えないんだよなー」
「ヒッ! そうだね!」
「…………しかしまぁ、変わったさ」
思わずアレンとデビットを見て唸った。主に縦方向の長さ的な所で二人は変わっていた。
なんつーか、デカい。基本的に柔和な顔立ちのアレンは兎も角デビットは迫力がありすぎる。
「へへ、どうだ!」
「無事に180cm越しましたよ。まだ伸びてますしね。190cm位まで伸ばしますから」
二人は胸を張る。しかしアレン、お前その顔で190超えってなんか違和感あるんだけど…………。
アレンもデビットも、高校時代のことを思えば驚くほど背が伸びていた。特にアレン。まぁ最も、前回会った時に既にかなり背が伸びていてもうじきユウを抜かすとか何とか言っててまたユウと其処で喧嘩してた訳だけど。
ジャスデロは…………まぁ伸びそうも無かったし実際伸びなかったみたいさ
「つかアレン、お前イメチェンしすぎ。誰の影響さそのロン毛」
「いやなんか伸ばしてたら伸ばしたほうが楽なような気がしてきて…………飽きたら切りますけどね」
しかもアレンに至っては胸の辺りまで髪を伸ばして、後ろで一つに緩く結わえていた。昔は自分の白髪がコンプレックスになってた奴なのにさ。
「だよな。俺も始めてみた時ビビッたぜ。クロスの真似かよって」
「師匠の名前出すの止めてくださいよ!!」
デビットの言葉にアレンが肩を抱いて震え上がった。…………あ、そこの力関係は変わらないんだ…………。
「ヒヒッ? 神田は?」
一人だけ全く変わった様子が無いジャスデロが首を傾げた。
「あ、そうだよ。神田どーした?」
「ああ、このあとコムイとか訪ねてガッコ行くじゃん? 手土産無いって、今隣のケーキ屋見てる。もう少ししたら来る筈なんだけど」
「そんな気使わなくていいのに…………」
アレンは自分が貰う側でもないのにそんな事を言う。正しくは自分が貰うものじゃないからこそ、か?
「でも早く来ないですかね〜。チビって逆に呼んであげようと思うんですが」
アレンのそんな言葉に、にやりと思わず口の端が上がった。
「神田はもう伸びて無かったよな?」
「うん、まぁね。高校出てからは全然みたい」
だって、女の子の成長期はとっくに過ぎてるしね。そもそもが女子の中では向こうであってもかなりの高身長の部類だ。
「よし! 神田に勝った!」
アレンとデビットがガッツポーズした。そんなに「チビ」とか言われてたの根に持ってたんさ?
さり気無く話題の修正を狙って、別の話題に移らせた。
「そういやさ、アレン大学イギリスのに編入だって?」
「ええ、そうなんですよ。正直実家の方って行きたくないんですけどマナが出といて損は無いって言うから…………」
「みーんな遠い所行きやがるしよ。なぁジャスデロ」
「ね! デビ! でもデロは何時までもデビと一緒だよ!」
「ジャスデロー!」
「デビー!」
がしぃ! と交わされる兄弟の抱擁。久し振りに見たそれに、苦笑いというよりは微笑ましいものを感じて眺める。
「ラビも、でも雰囲気変わりましたよね。前会った時も思ったんですけど」
「え? そう?」
片肘を机についてアイスティーをストローで吸い上げながらアレンがそんな事を言った。
「もしかして、アレです? あっちでいい人、見つけました?」
「…………ふっふっふ」
「え? 何何!? オンナ!? 写真ねぇの? 見せろよー!」
「ヒッ!? 彼女できたの!?」
「それってちゃんとした意味での『彼女』なんですよね?」
遊びのじゃなくて、って事なんだろう。
俺は無言で三人の前に、手を突き出した。
「? 何?」
「それ、ペアリング?」
目敏く右手の中指の根元に目を付けたジャスデロの言葉に頷いた。幅が広めのリングの中央に、蒼い石。勿論三人には見えてないけど、裏にはメッセージが刻まれていて、対になるもう一つのリングと重ね合わせて初めて裏の文字が読めるようになっている。因みに俺のリングの対になるリングは細い華奢なデザインに紅い石で、今隣の店の中焼き菓子を並べたショーケース前で菓子とにらめっこ中の人の左手薬指を飾っている。
「ヒヒッ! ラブラブだねっ!」
「これ見よがしに見せ付けやがってよー、イチャついてんじゃねーぞ?」
ジャスデビが笑いながら指差してきた。
「じゃあ結構真剣なんですね。いやぁ意外です。ラビにあっさりそんな女性が出来るなんて」
「ま、そりゃ…………散々遊んでたけど。その分、『本物』は直ぐに分かったさ」
「「「へぇぇ…………」」」
中々感じるところがあるのか、三人は何とも言えない声を上げた。
「神田は? 女出来たか?」
…………おっと。
「モテそうですよね、まぁ女性だけにかは分かりませんけど」
「…………そりゃー、本人に聞いたほうがいいさ」
にっこり、と笑ってその問いを受け流す。
「そういう話しねぇの?」
「まぁ、しない事は無いけどね。近所だからほぼ毎日顔合わせてるし」
近所どころか本当はお隣だ。
「来たら問い詰めて吐かせるしかねぇな」
「ですね」
「ヒッ!」
…………まぁ、問い詰めるまでも無いだろうけどね。
「! おっと、」
ビーッ、ビーッ、と鈍い音を立ててテーブルの上に出しておいたスマホが震えていた。
開いて中身を確認する。
「あ、もうちょっとだって」
「随分時間掛かってますよね?」
「ラッピングしてたんだと思うさ。先生の人数分だし」
了解の旨をメールで送る。
「そう言えば、二人は大学出たら帰ってくるんでしたっけ?」
「ああ、うんそのつもり。ユウも実家の道場継ぐつもりみたいだし」
「研究関係ならあっちのほうが第一線でしょうに…………」
「はは、それ散々学長とかに言われてる」
だけど首を縦に振ることはなかった。ユウと離れ離れになるくらいなら、大学なんてどうでもいい。
家族にもそう主張したら、「好きにしたら」「よっぽどの惚れこみ様だな」などとからかわれたもんさ。
「そいやアレン。話戻すようだけどさ。俺変わったって、どういう感じに変わってるんさ?」
「え? ああ、…………凄く柔らかくなった感じがします。全体的に、雰囲気が」
「そっか。…………へへ」
「?」
不思議そうな顔を浮かべたアレンに、笑っておいた。
入り口のガラス張り自動ドアの向こうには、ユウの姿。
俺を直ぐに見つけて、軽く頷いている。
三人はまだユウに気付かない。
店内に入ってきたユウは、店員と二言三言話して迷い無くこっちへ向かってくる。
三人の中で、最初に気付いたのはジャスデロだった。
「ヒッ…………」
びっくりしたようにジャスデロは目をまん丸に見開いて、息を呑んだ。
そんなジャスデロに気付いて、アレンとデビットの視線もテーブルの前にやって来た人へと向けられ――――――そして揃った動きで目を見張った。
さぁいいリアクションしてくれよと思わず俺は笑んだ。