「何だその怪我は」
「…………同級生と少々」

 帰宅して、食事の席。
 俺の顔を見るなりボケジジイ…………祖父は眉根を寄せた。
 怪我人に叩かれた位じゃ大したことねぇと思ってたんだが、案外腫れてきたからだろう。口の中も若干切れてて、さっきまで鉄の味がしてた。

「あの学校にそんな輩がいたのか」

 …………面倒になりそうな空気だ。

「男同士だったら殴り合いの一つや二つするでしょう」
「…………まぁ、それもそうか」

 おい、それで納得すんのかよ祖父様。
 追求されても確かに面倒だが…………。

「後で氷を持ってきましょうね。腫れて跡でも残ったら事だわ」
「はい」

 祖母様に答えた俺は、椀物が口の中の傷に染みて思わず眉根を寄せた。





「おーっすラビー」
「ボコられたんですって?」
「ヒヒッ、大丈夫っ!?」
「おう…………」

 夕方。
 夕飯の時間位に、アレン達が姿を現した。丁度コムイと入れ替わりのタイミングで。
  
「うっわ痛そー」
「全治どのくらいなんです?」
「二週間だとさ。骨にヒビ入ってるらしいから」
「へぇ…………で、ラビ」
「やった奴、何処のどいつ?」

 アレンとデビットの目が冷ややかな怒りの色を宿している。

「…………東校の奴ら。アレ、俺探してたらしいさ」
「そうなの?」
「何か前に俺がナンパした子が東校の頭の女だったらしーんさ。誰の事かも覚えてないんだけど」
「寝取られた方が必死になると何か痛々しいですよねー」

 アレンが小馬鹿にしたように眉根を跳ね上げる。
 簡単に寝取られる男も、靡く女も、馬鹿ばっかりだ。

「頭狙いで行けばオッケー?」
「でしょうね。何なら単車ででも乗り込みます?」

 血の気の多いアレンとデビットが早速お礼参りの算段を立ててる。
 二人の顔には少なからず「久し振りに思いっきり暴れられる」事への期待が見て取れた。

「ジャスデロは隠れてろよ? な?」
「そうする…………」
「因みにラビ、具体的にどういう奴だったか分かります?」
「んー、と…………」

 …………うーん。
 最初に声かけてきた奴は、金髪にピアス×たくさんのいかにもいかにもな奴だった。だけど殴られたり蹴られたりしてる間にどんどん人が増えてって…………

「あんま、分からねーんさ。軽く意識飛ばしてたし」
「うーん」
「…………、…………、あ、」

 ああ、そうだ。そう言えば…………

「神田なら知ってるかも…………」
「は?」
「神田?」

 三人の顔は、あからさまに「誰それ?」という表情だ。
 
「ほら、うちのクラスの女みたいな転入生。あいつが神田」
「ああ、昼間の…………って、何でそいつが出て来るんだよ?」
「あいつが割り込んで来たんさ。救急車呼んだのもあいつだし。…………腹に一発入れられたし」
「何それ」

 腹に一発、の所にアレンとデビットが敏感に反応する。

「まぁ俺が暴れたからなんだけどさ。…………ああ、いいからねそっちは。俺が自分でお礼参り行くから」
「はぁ…………ならそれはそれでいいですけど」
「じゃあとりあえず、明日神田とかいう転入生とっ捕まえて」
「きっちり吐かせますか」
「ヒヒッ…………」

 ?
 ジャスデロが、何か考え込むような顔をしていた。

「? ジャスデロ?」
「…………ラビ、あの神田とかいうの、どっかで見たことない?」
「…………? さぁ? 俺は見たことないけど…………」
「ラビが見たことないならデロの勘違いだねっ」
「…………?」

 あんな顔の男がいたら物珍しさでまず忘れないだろう。大体俺は一度見たものはまず忘れない。
 勘違いと言いながらも気になる様子のジャスデロを連れて、アレン達は帰っていった。
  
 
 

 一晩冷やしたら腫れは引いた。
 腫れたまま登校したら速攻で何か言われるか、何か噂になるのは目に見えていたのほっとする。
 通学路にはもう昨日のような他校生は見当たらない。
 
 …………あいつ、学生同士の喧嘩にしちゃ派手にやられてたな。

 関わり合いになって根掘り葉掘りやられるのは面倒だったから、救急車を呼んでからはあいつをベンチに寝かせて、離れた所から様子を見ていた。ちゃんと搬送されたから大丈夫だろう。
 どうせ今日何らかの話はあるだろうが…………

 そんな事を考えながら駅からの道を歩いていた俺は、見えてきた校門の前に、見た事のある顔が三つ並んでいる事に気が付いた。



 小説頁へ