ユウは、高校の時よりも少し高い声――――――意識して低い声を作ってないからだ――――――でそう言った。
「「…………え?」」
ユウは今、ネイビーのカシュクールに、ホワイトブーツカットデニム。それからローヒールのパンプスに、白のハンドバックという出で立ち。それは何処をどう見たってレディースだ。ついでに言えば俺のより細い、けれどデザインは同じなリングが左手薬指に鎮座している。アレンとデビットの唖然とした視線がその服からつつ…………と動いて指の付け根に留められたのを見て小さく含み笑った。ジャスデロだけは、少しだけ驚いた顔でユウを見上げている。
アレンとデビットの様子に肩を竦めたユウは俺の隣に座った。二人の様子に、何が言いたいかは理解している、そんな顔でさらりと言う。
「久し振りだな」
「「…………」」
アレンとデビットはユウを指差しながら、何か言いたいのに声にならない、そんな顔で口を金魚のようにパクパクさせながらこっちを見る。明らかに説明を求めている顔だ。
だけどそれはユウから成されるべき説明だから、俺は敢えてそれを無視した。
「遅かったね」
「ああ、想像以上に混んでた。その分美味いんだろ」
極普通に話し始めると、最初の衝撃から漸く立ち直り始めたらしい二人が掠れた声で呟いた。
「…………は?」
「え? 何? …………何なんですか?」
「お前…………」
「ああ…………変か?」
ユウは自分の格好を見下ろした。ユウが身に着けているものは全て、俺の見立てによるものさ。家の伝統で二十歳を過ぎるまでまともに女の子の格好が出来なかったユウは女の子としての格好にイマイチ自信がないらしく、そうでもしないと女の子の格好をしてくれない。
「…………いや、変、っつーかよ…………」
「ある意味凄く似合うんですけど…………でも貴方、」
余りにもユウが堂々としているし、俺…………と何故かジャスデロも動じないから、返って自分達が可笑しいのか、いやそんな事は無い、無い筈…………そんな逡巡が二人にはあるんだろう。言葉を選びながら、視線を彷徨わせている。
「まぁ…………話せば長くなるか。見たほうが早いか?」
そう言ってユウは自分のハンドバックから赤い表紙のパスポートを取り出して開き、二人の前に押し出した。やろうしている事に、思わずイイリアクションを期待してニヤついてしまう。
「「…………」」
二人の視線は上から順番に辿っていき、それから「性別」欄で吸い寄せられたかのようにピタリ、と止まった。知っている俺には今更だけど、そこに書かれている記号はF…………つまりFemale、女性だ。
二人は暫くそれを呆然と眺めて、視線を上げてユウを見て、それからもう一度パスポートに戻して、またユウを見て――――――
「「っああああああ!?」」
ガタンッ! と音を立てて立ち上がり、ユウを指差して絶叫した。
周囲の何事かという視線が一斉に集まるが今の二人はそんな事気にしてる余裕は一切無いだろう。
「おっ、おまっ…………」
「お、おんっ…………」
「ああ」
明らかに動揺している二人にユウはそれはもうあっさりと頷く。
「今から説明してやるから、お前らちょっと座れ」
未成年の頃、取り分け高校時代の事情を説明したユウは「納得したか?」と眉根を上げる。レモンを絞ったアイスティー、そのグラスの中の氷をストローで突きながら。
「「…………へーぇ…………」」
が、アレンとデビットはそれどころじゃ無かったらしく、目は虚ろだ。
そんな二人の様子に、何故か一人だけ平静なジャスデロは困ったように笑いユウに話しかけていた。
「神田、その服似合うねっ! ヒヒッ!」
「…………そーか? あんま好きじゃねーんだがなこういうの…………」
(ちょっ…………どーして教えてくれなかったんですかっ!! 高校卒業してからも顔合わせましたよね僕ら!?)
(…………いやー、ユウが言われたく無かったみたいだから黙ってなきゃなと思ってさ)
(お前それ本当かよ…………つーか、俺とアレンが何度あいつにセクハラみてーな真似したと思ってるんだよ!?)
(本当あの時はどうしようかと思ったさ。邪魔するとお前ら怒るし…………)
(僕、神田に何度か手上げてるんですよ!?)
(いやもう、その度に血の気引いたさ…………お前ら容赦ないんだもん。ユウも容赦ないけど)
何度殴り合いになってたか…………。
(女の子だって知ってたらやってません!!)
(俺だって女にわざわざエロ本見せたりAV見せたりしねーよ!!)
「ラビの好みなの?」
「ああ、あいつが買ったからな。俺はこういうの自分じゃ買わねー」
(そしてなんでジャスデロはあんなに平静なんですか!?)
(それは本人に聞くさ!! 俺が知りたい!!)
学生の頃に気付いてた俺と違ってジャスデロは知らなかった…………筈。
「へぇ! それで、綺麗な格好して、どっか行ってたの?」
「ああ。結婚式場にな」
ゴンッ!
ユウが極めて平静に放った一言はアレンとデビットを沈没させた。勢いよく二人は額からテーブルに崩れ落ちる。
残念だけどこれ、事実さ。
「結婚式場? それって…………」
「ああ。下見と本予約だ。式と祝宴は家で執り行うが知人を招いた披露宴は外で会場を借りることにした。…………あ、そうだった。お前らには直接渡そうと思ってたんだ」
ユウはそう言うと、ハンドバックから三通の招待状を取り出してジャスデビとアレンの目の前に並べた。
ジャスデビにはまとめて1通でいいんじゃない、って言ったのにわざわざそれぞれに用意したらしい。
のろのろと顔を上げたアレンとデビットの目は虚ろだ。そしてジャスデロは何を悟ったか、満面の笑顔。
「来年の四月の終わりに式を挙げる。都合がついたら参列してくれ」
「うん!!」
「「…………」」
虚ろな目でアレンとデビットはこっちを見た。想像以上の「イイ」反応に、思わずニヤニヤ笑ってしまう。
「えーと、神田。聞くまでもないと思いますけど。…………誰と誰の結婚式で?」
「あ? 何言ってんだお前。この場合普通分かるだろ?」
「や、そうなんだけどさ…………。何かお前の口から直接聞きたいっつーか…………聞いたら諦められるかなって…………」
「そりゃお前ら…………俺とラビのに決まってるだろ」
ゴンッ。
更に留めの一撃。
それを聞くなりアレンとデビットは勢い良くテーブルに向かって顔面からダイブした。