「ヒヒッ! おめでとー!」
「ああ」
ふわり、とユウが優しく笑んでジャスデロに微笑む。
「あああああ…………!」
「出遅れた…………!」
テーブルの上で頭を抱えてのた打ち回る二人にユウが不審げな視線を向けそれからまたジャスデロに戻した。
「ラビの恋人って、神田だったんだね! ヒッ! いつから?」
まるでジャスデロの言葉は追い打ちをかけてるみたいだ。
「高校の卒業式の時から。ね?」
「…………」
ユウに向かってにっこり笑いかけながら確認すると、あの時の騒ぎを思い出したのかユウは少し顔を赤くして頷いた。
「…………おいラビ、お前、『いつから』だ?」
「?」
デビットの言葉にユウが「今言っただろ」と言いたげな顔をした。でも、多分デビットの聞きたいことはそこじゃない。
「んー…………高校三年の、文化祭の前辺りかな」
因みに俺がそのユウの『秘密』を知った経緯については、未だにユウにも話してない。死ぬまで黙ってて墓まで持ってく予定さ。…………あ、よく考えたらコムイが知ってるんだった…………。
「「…………」」
「俺も、まさかそんな早くに知られてるとは思ってなかった。ずっと…………」
ユウはそこで言葉を切ってジャスデロを見た。ジャスデロが苦笑を浮かべて小さく頷く。
「知ってるのは、ジャスデロだけだと思ってた」
「「「…………はぁ?」」」
…………ちょい待ち? ユウ? 今なんつった?
「ジャ、ジャスデロぉぉぉぉぉ!?」
「ヒッ…………ごめんねデビ、神田がデビにも話ちゃ駄目って言ったから…………」
「い、いつからです?」
「早かったよな、俺が転校して来た直後くらいじゃなかったかアレ」
「覚えてるよっ! 体育館裏でご飯食べてた時に上から水掛けられて…………」
デビットはそんな事あったか? と考え込む顔だ。アレンは心当たりがあるらしく頷いている。因みに俺には記憶が無い。確かユウが高校に転校してきた頃っていうと俺が絶賛捻くれて爛れた生活を送ってた頃だ。それが祟って入院までした。…………その時だな、うん。
納得して頷いていると、ユウがさらっと爆弾を投下してくれた。
「それでシャワー室で遭遇してバレた」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?」
どういう事さ!?
「タオル取ってきて渡そうと思って入ったら見ちゃって…………」
そこはかとなく申し訳なさそうにジャスデロが続ける。
「ううー…………」
シャワー室で遭遇して、見ちゃったって事はそういう事だ。
「マジかよ…………」
デビットが天井を仰いで小さく呟く。ニコイチ、一心同体をモットーにする双子としては驚愕モノだろう。
「ティキも知ってたし」
「マジで!?」
兄弟達が知っていて自分だけ知らなかったことにデビットがいい加減悲鳴になりそうな声を上げた。アレンはぐったりとテーブルに伏している。
「アイツは自力で気付いたんだよね?」
「あぁ。家に行ったら何でか知らんが速攻バレた」
「ティキ女の子大好きだから…………」
俺も色々言われた記憶がある。何にせよ自力で気付けなかったというのは俺も一緒なので、ちょっと悔しい。惹かれていて本能レベルでは気付いてたんだけど、そんな訳が無いっていう理性が気付くのを邪魔していた。多分それはアレンやデビットも一緒だ。
「ま、年の功ってのもあるかもね」
「そうだね! ヒヒッ!」
会話が途切れた時、ユウがちらりと時間を確認した。高校、というか主にコムイとクロスには訪ねる時間を伝えてある。そろそろだ。
「ま、とりあえず、学校行くさ?」
久しぶりの校門に目を細める。
此処を初めてくぐった時、嫌いだった。倦んでいた。
でも最後にくぐった時は惜しかった。
中からは楽しそうに笑っている学生の声がしている。――――――懐かしい。
ふと隣を見ると、ユウも同じような事を考えていたのか視線が合った。小さく笑いあう。
「俺、此処でユウに逢わなかったらどんな奴になってたんだろ」
自分で言うのもなんだけど、高校生時代の俺は中々のクズっぷりだったと思う。授業でないし校則守らないし(学校側が許してたってのもあるけど)、彼女とっかえひっかえするし。校内で不純異性交遊に興じた事も数知れず、だ。俺が教師ならこんな学生ぶん殴りたくなる。学校長の事は嫌いだったけど今なら厄介な学生でごめんと手を合わせるくらいは出来る。
俺はユウに逢って、その傍に立つのに相応しい人間になりたいって思ったから更正したんだと思う。うん。
「さぁ? 女癖の悪さが祟って刺されでもしてこの世にいないんじゃねぇの?」
「ちょ、ユウ酷いさ!!」
でも否定は出来ない。ありえそうで嫌だ。実際女絡みで病院送りになった事があるだけに、さ。
「――――――男の振りして転校しろなんてふざけてんのか、絶対嫌だって思ってたんだが。でも俺にとっても幸運だった」
「そ、だね」
あの時期外れの転校が無ければ俺達は多分出会わないまま終わってた。
笑んで、ユウの小さな手を握った。緩く握り返してくる。
そして二人で校門を潜って――――――
「お前ら何時までそこでイチャついてんだよバーカバーカ!!」
「見せ付けるのいい加減にしてくれませんかねぇ…………」
「ヒヒッ」
先に敷地内に入っていたアレンとデビットから非難された。何とでも言うがいーさ!
そんな事を考えてたのがバレたのかギリギリと眉根を寄せたデビットがつかつかと寄って来て、俺の耳元に低く唸るような声で囁いた。
「テメー調子こいてっと、結婚する前に寝盗んぞ」
…………。
これだからこいつらにバレるのヤだったんだよなぁ…………。
「それ本当に出来ると思ってる?」
「…………」
柄の悪い舌打ち一つと共にデビットはサッ、と離れた。
「言っとくけど俺よりアレンの方がタチ悪ぃからな。アイツ多分簡単には諦めねーぞ?」
「知ってる」
「?」
唐突なアレンへのディスっぷりにユウは不思議な顔で俺を仰いだ。
何でもないよと笑いかけておく。
離れていても事情は察した顔のジャスデロがこれ以上揉めるのも大変だと、早く早くと急かしてきた。
俺達は俺達の幸福な報せの為に、校舎に向かって歩き出した。
――――――間違いなく青春を過ごした、その場所へ。
<終>