盛大な悲鳴が尾を引くようにして消えた。消えたんじゃなくて聞こえなくなっただけかもしれない。
ダンッ!!
着地までの時間はほんの一瞬だ。階段を下りるより此方のほうが遥かに早い。柔らかい土の所を狙ったから足に来た衝撃はそれ程でも無かった。
砂埃が舞い上がり、視界を埋める。
厭わしいので振り払い、丁度目の前にいた二人に――――――二人共面白い位に間の抜けた顔をしてる――――――声を上げた。
「おい、黒髪!」
「…………え? あ? あ、俺?」
「お前と一緒に居た金髪、黒詰襟に持ってかれたぞ!」
「「!!」」
俺がそう言うと、呆然としていた二人がはっ、とした顔をした。
「ジャスデロが!?」
「持ってかれた、って…………どういう事ですか!?」
「ついさっき、校門に奴らがいて…………俺が見ている前で、あの金髪殴られて車に引きずり込まれてた」
「「!!」」
俺がそう言うと二人の表情が凍りついた。
「…………な、…………ジャスデロ、」
「…………っ!」
黒髪は茫然自失とした顔で、白いモヤシみたいな一年は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「僕達も、彼を探していた所です。姿が見えなかったので」
「…………ジャスデロ、」
「…………でもあいつ、自分から奴らの所向かってたぞ?」
「え」
「何でだよ!?」
「俺が知るか」
あの金髪、自分からあいつらに駆け寄ってたしな。
…………あれ、そう考えると別にわざわざ連絡しなくても良かったのか?
でも殴られてたからな…………
どういう事だと首をかしげていると、突然五月蝿い音で誰かの携帯が鳴り出した。
「?」
「チッ、こんな時に…………、あぁ? ――――――!?」
心底嫌そうに電話に出た黒髪が、息を呑んだ。
その様子に思わず白モヤシと顔を見合わせる。
「てめぇ…………っ、おいこら、おいっ!!」
黒髪が電話口に向かって怒鳴る。…………切られたらしい。
携帯を握り締めたまま、黒髪は何処を見ているのか知れない顔で立ち竦んでいた。
「デビット、まさか、」
「『四時に、駅東の公園に来い』」
「…………、」
あの金髪、人質に取られたな。
「『俺達の邪魔した黒髪の女みてぇな奴も連れて来い』」
「!」
…………それはもしかしなくても俺の事か。
何で俺が、なんて、多分言わずもがなの事なんだろうが。
二人の視線が俺に集中する。
これまでの睨むような鋭いものとは違い、戸惑うような、物言いたげな目だ。
「しょうがねぇな。乗りかかった船だ」
厄介ごとは避けたい所だが仕方ねぇ。
放り出してきた荷物の中の竹刀に思いを馳せながら俺は前を見据えた。
指定された公園。
「何だ、誰もいねーじゃねぇか」
二人に着いて来た俺は、辺りを見回して首を捻った。
公園とは言うものの、駅の東側――――――繁華街、それも男向けのそれらに程近いこの公園には、本来の利用者であろう子供達の影は殆ど見たことが無い。きっと学校などでは「近付いてはいけない場所」として指導されてるんだろう。俺が人の親だとしてもこれは嫌だ。
「…………、」
白モヤシは辺りを油断無く見回して、黒髪は露骨に焦りを滲ませた表情で唇を噛んでいる。
公園の時計を見ると、時間は四時を過ぎていた。
…………地響きにも似た、音がする。
「「「…………」」」
三人で公園の入り口辺りを見ていると、やがて姿を現したのは公園というスペースには余りにも似つかわしくない、改造された黒い車だった。
車から降りてきたのは運転手を含めて六人。
うち一人が、まるで小突かれるようにして下ろされていた。――――――金髪だ。
此処からでも分かるくらい右頬が腫れていて、右肩を庇い右足を引き摺るようにして歩いている。
どういう目に遭ったのかは想像に難くない。
「…………テメェら、」
黒髪の声は地の底から這って出て来るかのように低い。
「こないだはうちのが世話になったんだって?」
…………黒詰襟の一人。
金髪に刺青の男が、意外なほどに軽い調子で訊いて来た。
「いや悪かったな。俺は留守にしててさ」
笑っている。
それ故に爬虫類のような目の冷たさが異様に目立つ。
「――――――だから丁重に礼しとかなきゃと思ってさぁ」
笑う金髪が手を上げると、公園入り口から人が、同じ黒詰襟を着た奴らがどんどん入ってきた。十四、五人はいただろうか。
何時の間に囲まれてたんだよ。
多勢に無勢もいい所だ。だが。
黒髪とモヤシが拳を握った。
「そりゃぁ奇遇だな」
「僕達もたった今、丁重にお礼しなければと思ったところですよ」
二人は怖気づいたようでもなく、片頬だけで笑った。
「――――――やれ」
リーダー格の金髪の一声で、その場に居た黒詰襟が殺到してきた。