滅茶苦茶に斬り付けてくる奴の一撃は後ろに逃げながら逸らす。流石に男の腕と力比べをするつもりは無い。勝ち目も無い。
 逃げつつ、引いた先で小手に鋭く叩き込む。

「っ!」

 落ちたナイフは蹴り飛ばして遠い所へ避けておく。
 ひとまず一番危険なのは片付けた。
 だが依然として状況は余り良くは無い。
 早速囲まれている赤毛から数人を手当たり次第に引っぺがして、どつきとばし、蹴り飛ばす。
 そうしているうちにモヤシも黒髪も赤毛に辿り着き、殴る蹴るの先程よりも尚も混沌とした乱闘が始まった。
 

 ドンッ


 その最中、赤毛と背中合わせでぶつかる。

「はっ…………逃げなくて良かったんさ? 虐められっこ」
「そりゃこっちの台詞だ、怪我人。 大体それ誰の事言ってんだ?」
「…………上等!」

 俺達は互いの背を押し合うようにして、駆け出した。








「っは、はは、」
「へへ、ザマーミロ…………」
「っふー、…………、」

 倒れ臥した奴らを眺めるのは中々壮観な図だ。俺達は其々遊具に凭れながらそれを眺める。
 全力で、ルールも何もなしに暴れるのは、それはそれで愉しかった。武道を修める者としては問題だろうが。
 文字通りの意味で襤褸切れみたいになってる奴らの顔も満足そうだった。
 まぁ俺も何発が顔面入れられたけどな。さっきから口の中に鉄の味がする。あと警棒みたいなので殴られた肩はじくじくと地味に痛い。
 蹴られた腹は、急所を外したからまぁ大丈夫だ。

「何人やった? 俺三人」

 怪我人にしちゃ善戦したんだな。

「五人」
「六人」
「勝った。十一人」

 まぁこの中で武器持ってたの俺だけだしな。剣道三倍段とはよく言ったもんだ。

「嘘付け、そんなに人居なかっただろうが」
「や、そーでもないさ。次から次へとどんどん増えてたし。集合掛けてたんじゃね?」
「マジで? 道理で蹴っても蹴っても沸いてくると思った」 
「ああもう、お風呂入りたいです。ローズオイル入れたお風呂」
「やめとけよモヤシ、そんだけ痛んでると暖めると余計に腫れたりすんぞ」
「えー…………」

 俺もそうだがな。
 今日は冷水でシャワーだけにしておくとするか。
 …………にしても、この雑巾みたいな制服といい、怪我といい…………祖父様祖母様に何て説明するか…………。

「あークソ、段々痛くなってきやがった」

 確かに最中はハイになってたから、どれだけ顔殴られようが、腹に蹴り入れられようが、痛くもなんとも無かった。
 
「ヒヒッ、皆っ、買って来たよ!!」

 一番軽症だった為買出しを買って出た金髪が、近くの自販機から両手に缶ジュースだか茶だかを抱えて戻ってきた。
 特に希望を取らなかった辺り、好み位は知り尽くしてる間柄なんだろう。
 金髪が配って歩くのをぼーっと眺めていると、

「はい」
「…………?」
「? お茶、嫌い?」
「や…………、」

 金髪が俺にまで差し出してきた。
 俺、頭数に入ってたのか。

「俺たちの勝利にー」
「「「かんぱーい!」」」
「…………」

 一応、俺も缶を掲げるのだけは参加しておいた。

「いてててて」
「ちょ、ラビ、」
「お前病院もどれよ」
「嫌さ、抜け出した上に怪我増やしたなんて言ったら絞られるの目にみえてもん」

 もん、じゃねぇだろその怪我。

「それにしてもさー。お前以外に強ぇんじゃん」
「虐められっこじゃないんですか」
「…………俺か?」

 誰が虐められっこだ。

「何だその虐められっこって」
「あれ? 違うんさ?」

 俺、何でそんな扱いになってんだ。

「誰がだよ」
「こんな時期に転校してきたって、どう考えたって訳アリだろ?」
「何やらかしたんですか?」
「喧嘩で傷害?」
「万引きで窃盗?」
「女孕ませた?」
「怪しいクスリ?」
「何でそんな選択肢しかねーんだよ」

 しかも三番目に至っては無理だ。生物的に考えて。

「で、実際は?」
「親が転勤。じいさんばあさんに引取られた」
「「「「なーんだ」」」」」

 何だその「つまんねー」って顔は。どんな理由だったら良かったんだ。

「そういやお前、何で追われてたんだ?」
「あー、それね。いや大したことないんだけどさ」


 ファンファンファンファン…………

  
 その時、突然聞こえてきた音に俺達は顔を見合わせた。

「ねぇ」
「あれ」
「オマーリ?」
「じゃね?」

 あの耳につく音。間違いない。   
 
「しかもこっち向かってきてない?」
「誰か通報しやがった!?」

 まあこれだけ派手に騒げばそりゃ通行人の一人や二人、通報しようと思うだろうな。
 至極当然と思えなくも無いが、奴らは慌てていた。
 補導されてはヤバいのは俺も同じなので奴らと一緒に跳ね起きる。

「ヒヒッ、嘘!? マジ!?」
「誰だよ余計な事しやがったのは!!」

 見知らぬ通行人Aに違いねぇ。

「うわ、早く逃げないとヤバげですよこれ」
「っと、いでででで」
「あーもう、ラビ肩貸しますから!」
「て、てて、撤収ー!!」

 黒髪の号令に合わせて、俺達は散り散りになって駆け出した。



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