日々が平穏に過ぎて行く。
風の噂では、あの時俺達がやった東校の奴らは暴力沙汰を理由に謹慎処分を喰らっているらしい。
俺達はといえば、確たる証拠もなく、そして聞くところに寄ればジャスデロとデビットは代議士の息子、そしてモヤシは、俺は知らなかったが俺の祖父様と同じ此処の大口の出資者の息子だとかいう理由、そして俺はモヤシと全く同じ理由(もしかしたらそこに女だからという理由も加味されたかもしれないがされてないかもしれない。つまり良く分からねぇ)でこれと言ってお咎めは無かった。学校としても知らぬフリを通すしかないという事もあるかもしれない。
あの後、何度かあの三人とは学内で顔を合わせたし、何度も見かけた。
何時見ても大体奴ら三人はつるんでいる。
そして赤毛はまだ学校に姿を現さない。本当なら四人でつるんでるんだろう、という事は容易く想像できた。
差し詰め、問題児四人組ってトコか。
「…………」
教室での噂話は散々だ。曰く、ヤクザの女を寝取って半殺しにされただとか何とか、暴走族同士の抗争に巻き込まれたとか何とか。
そしてその様子で分かった。
あの赤毛は、嫌われては居ないようだがクラスに受け入れられている訳でもないらしい。
…………あの風体と行動ではそれもさもありなん、と思えなくも無い。
むしろ好んで周囲から浮くような行動を取っているようにも見える。
アウトロー気取りか、それ以外か。どっちか知らねぇし、どっちでもいい。
「…………」
肋骨の骨折か…………大事になってたらしいからな。
ぼんやり空を眺めながら考える。
ガシャンッ
「っ!?」
「きゃあっ」
痛っ…………
よりにもよって科学の授業中。
考え事に気を取られ、手元が狂った。
床に飛び散ったビーカーだかフラスコだかの破片に思わず途方に暮れた。
「大丈夫かい!?」
血相を変えたコムイが駆け寄ってきた。
「あちゃー、切っちゃったか…………仕方ない、保健室に行って止血しておいで」
俺の手の甲の傷を見てコムイが言う。
確かに深くはねぇが、結構派手な血の出方だ。
片づけを隣の奴に頼んで、俺はハンカチで手の甲を押さえながら実験室を出た。
授業時間帯の廊下はシン、としている。時折授業の開かれている教室から教師とおぼしき声がするだけだ。
授業時間中に廊下をうろつくような不届き者はいないって事か。
ハンカチに赤が滲んできた頃、俺の目には健康に関してのポスターがベタベタ張られたドアが映っていた。
コンコン
「失礼します」
一階、昇降口の直ぐ横に第一保健室がある。
こっちは男の保険医がいる保健室で、本来なら男子生徒の利用だが(この学校では保険医が男女各二人ずついて、それぞれ男は男を、女は女を診るという事になっている。流石は私立ってとこか)、今の俺は一応男子生徒だからこっちを使うことになる。
血を床に零さないよう気をつけながらドアノブを引いて中に入る。入って最初に感じるのが消毒液のにおいって所はきっと全国何処の学校も同じだろう。
入った所から丁度見える二つの机は、どちらも主が不在だ。
「…………いねーのか」
二人いるんだからどうせなら一人は残れよ。
割と身勝手なことを考えながら俺は消毒液や絆創膏などが仕舞われている箱に近寄った。
消毒してでかい絆創膏張るくらい、人の手を借りずとも出来る。
…………ん?
絆創膏、小せぇのしかねぇな…………
もっとデカいのはねーのか?
がさごそと適当に荒らし…………もとい、探し回っていると。
「…………何やってんの?」
呆れたような声が掛けられた。
振り向いたそこにいたのは、呆れ顔で腕を組んでいる、近頃全く顔を見なかった赤毛の姿だった。