「何だお前、出てきてたのか」
「二日くらい前からね。…………何? 怪我?」
「ああ。お前、でかい絆創膏ある場所知ってるか?」
「其処見当違い」
赤毛はそう言うと、自分の背後にある背の高い棚を振り返った。
「こっち。…………どの位の大きさ?」
「手の甲くらい」
「じゃー、これ」
その小さな引き出しが沢山ついた棚から迷う事無く一つの引き出しを開けて、俺に中身を突きつけてきた。
確かに手の甲を覆うには、少しばかり大きいが丁度いいといえる。
「お前、保健委員か?」
「は? 委員なんて面倒なもんやる訳ないじゃん」
確かにな。そんなのに収まる様な奴には見えない。
「一度見たもの、忘れないから」
「…………、へぇ?」
そりゃ随分な自信だ。そういうの自意識過剰って言うんじゃねぇのか?
「何したんさ?」
「切った。授業中に…………」
言いかけて、ふと思い出した。
…………こいつ。
「…………お前、何でいねーんだよ」
「?」
「今授業だろうが」
そもそもこいつ、此処で何やってたんだよ…………
「ベッドで寝てた。俺重傷者だし」
「重傷者が学校出てくるな。病院で大人しくしてろよ」
「知ってる? 病院もタダじゃないんだけど」
知ってるに決まってんだろ!!
「じゃあ家…………」
「俺一人暮らし。重傷者に一人で寝てろって?」
「…………」
「…………」
悉く、一々言い返してくる奴に苛々して思わず睨む。
「どーでもいいから、手ぇ出すさ」
「?」
言われたとおりに、ハンカチを抑えていた方の手を出す。
「馬鹿? 怪我した方の事に決まってるさ」
「なっ…………馬鹿にすんなっ!」
「馬鹿にされるようなことする方が悪い」
「五月蝿ぇ!」
一々一々五月蝿い奴だな!!
「…………何かで切った?」
「ガラスの破片。実験中に…………」
俺が言うと、赤毛はわざとらしく噴出してみせた。
テロップでもつけるなら「この間抜け」だろうか。
何にせよ腹が立つのは事実だが、実験器具を扱いながら心此処にあらず状態だった俺も俺だから、早々文句も言えやしねぇ。
「はーん…………でも綺麗に切れてるから治り早そー」
医者のような事を言いながら赤毛は俺の傷に消毒液を塗りつける。
消毒液を含んだ脱脂綿が傷に触れるたびに、痛みが走って眉根を寄せた。
「この位俺の怪我に比べればかすり傷みたいなもんさ」
「…………それはそうだが」
むしろあんなのと一緒にするな。
ヒリヒリと痛む傷口に絆創膏を貼り付けて手当ては終わりだ。
「悪かったな」
「ホントさ、寝てるところ起こされて…………」
赤毛はそう言いながら欠伸をした。
「寝てた? …………ああ、ベッドか」
こいつ、此処を病室代わりにしてるのか。
だとすれば、保険医がいない理由も何となく察せられる。…………こいつが追い出したな。
「あー、クソまた痛くなってきた…………寝よ」
「おい」
「?」
木の枝みたいなのを編んで作った屏風見たいなものの向こう側に戻ろうとした赤毛に声を掛けた。
振り向いた奴に告げる。
「怪我治ったら、授業出ろよ。ノートなら貸してやるから」
「…………」
その瞬間の、面食らった赤毛の顔の理由は俺はまだ理解していなかった。