保険医用の椅子に座って机に足を投げ出して本を読んでいた俺は人が入ってきた気配に顔を上げた。
「よーラビ、サボりに来たぜー」
「大丈夫っ? ヒヒッ」
「いらっしゃい〜」
まるで自室みたいな扱いだ。まぁ、学校の許可付き何だから文句言われる筋も無い。
「怪我、どーだって?」
「もう殆どオッケー。若いから治りも早いんさ」
「良かった…………あ、ラビ、お茶いれていい?」
「どーぞ」
ジャスデロがコンロに向かう。
茶の用意はジャスデロに任せて、デビットは目の前の長椅子に寝そべった。
「あー、眠。昨日完徹で新作のゲームやってたから眠ぃんだよなー」
「寝てけばいーじゃん。帰るまでにまだ時間あるっしょ?」
「まーな。ベッド空いてるよな?」
「うん。あ、左端はやめといて」
「?」
「さっき使った」
指でセックスを意味する仕草をしながらそう言うと、デビットは一瞬点目になった後腹を抱えて笑い出した。
「ぎゃはははは! お前、馬鹿じゃねーの!? 馬っ鹿じゃねーの!? 何女連れ込んでるんだよ!」
「デビットに馬鹿とか言われるのは真に心外さ」
「さり気無く酷くね? それ」
「此処ラブホの代わりかよ、ったくお前とアレンはよー」
「何言ってんさ。俺達は普通さ。普通じゃないのは、お前ら」
女の子より自分の兄弟がいいなんて奴の方が可笑しいに決まってる。
「んな事ねーって」
暫く笑っていたデビットはその内に笑いの発作が収まったのか、目元を拭った。…………目の回りが真っ黒でそれはそれはすごい事になっている。
「あーあー…………あー…………。後でお前、鏡見てくるといーさ」
「げ、やっちまった。なぁジャスデロー、メイク道具持ってねーか?」
「デロの鞄に入ってるよっ!」
「借りるぜー」
言いながらジャスデロの鞄を漁るデビットは、黒いレザー製のポーチを取り出した。中から鏡を取り出して覗き込んでる。
「そういえば、後で神田のトコ行かないと」
「は?」
「何で?」
茶を運んできたジャスデロの言葉に、俺と、それから鏡を覗き込んでいたデビットが顔を上げた。
何言ってんの、この子。
「卵焼きの作り方、教えてもらう!」
「おいおいジャスデロ、俺はしょっぱい卵焼きは認めねーぞ?」
「甘いのもつくるよ!」
「ならオーケー」
…………。
何? どういう会話?
「神田の卵焼き、美味しかったんだよっ!」
…………?
「今日昼一緒に食ったんだよな。んで、そんとき盗み食い」
「ナニソレ? 何お前ら友情深めあっちゃってんのさ?」
「や、あいつ結構面白い奴だぜ? 見た目いいのに、なんつーの天然? 馬鹿? よくわかんねーけどさ」
笑いながら言うデビットに、だけど俺は素直にそれに感心する事は出来なかった。
「つーかさ。あんま俺達と一緒にいると、本当にあいつハブられる羽目になるさ」
「え? いーんじゃね? あんま群れるタイプじゃねーみたいだし。今日だって体育館裏で一人で昼飯食ってたし」
「…………」
何あいつ…………
良く分からん奴さ…………。
「今度ラビの分も貰ってきてあげるねっ!」
「お、おうさ…………」
良く分からんテンションのジャスデロにそう言われ、俺は曖昧に頷いた。