――――――憂鬱な、臨海学習出発日。
 何時もよりも一時間ほど早く登校し、グラウンドに整然と並ぶバスに向かう。
 各クラスバス内で出席を取ると言うのは昨日の帰りのSHRで通達があった。

「はい、皆おはよ〜。忘れ物はないかい? 隣の人が忘れ物になってないかい?」

 ある意味誰よりも「海」なんて似合いそうにないコムイがいつもどおりの白衣で(それで海に何しに行くんだこいつ)、若干眠そうな顔をしながら出席を取っていた。

「ラビ。…………あれ? ラビー? いないの?」
「…………俺の隣で寝てます」


 そうだ。
 何の因果か。
 今朝、電車の関係でかなり早く着いた為好きなところに座れた俺は、適当な席の窓側にいた。
 他の奴らが集まりだしたグラウンドをボーっと眺めていると、隣に人が来た気配。
 まだまだ席は空いてる筈なのに…………と視線を送ると、そこにいたのは堂々と俺の隣の席に陣取ったラビだった。

「…………何だよ」
「何って、何が?」 

 その問い掛けこそ何だと言いたげな顔で俺を見たラビは、さっさと背凭れを倒して寝る体勢だ。
 …………こいつ…………。

「あー、起こさないでね。俺昨日合コンで遅くまで起きてたんだから」
「懲りてねぇんだなお前…………」

 女絡みであれだけ酷い目遭っといて…………
 好き者も此処まで来ればそれもまた一つの生き方なのかも知れねぇな、とか少しだけ思った。間違っても身内には欲しくない人種だが。

 眠かったのは本当らしくすぐに隣からは寝息が聞こえてきた。
 そして今に至る。



「ありゃ…………まぁいいや、いるなら。じゃあこれで全員揃ったので出発するよー」

 コムイが気の抜けた号令を掛け、そしてバスは何処よりも早く動き出した。



 バスの中は興奮に包まれ騒がしい。
 俺達は…………まぁ寝てるラビに気を使われているのかそれとも単純にハブられているのか良く分からんが、騒がしくされないのは僥倖だ。
 バスは俺が知らない、駅方面とは真逆へ向かいそして高速に乗った。
 目まぐるしく変わっていく風景を見るのは嫌いではない。
 
 そして、どの位時間が経ったのか――――――
 陽がかなり高い所まで上ってきた時分。

 高速道路でトンネルを抜けた先に広がる蒼。
 その瞬間、車内は歓声に包まれた。

「んあ?」

 隣で眠ってたラビが、その声に反応して眠たげな目を開く。
 高校生にもなって海で喜ぶってのも、な…………。

「もうじき着く?」
「ああ」

 蒼い海は、太陽を反射して輝いていた。





「ごめんね神田君」
「? 何がだ?」

 最寄のインターから降りて、今は宿泊先だという海の直ぐ傍のホテル。
 荷物を抱えてバスから降りた俺をコムイが手招きして呼び、そして最初の発言がそれだ。

「部屋分けの件。…………一人部屋ってのが無くてね…………。男子と一緒ってのはキツいとは思うんだけど」
「ああ…………」

 今更だ…………。

「別に…………いいが」
「くれぐれも、バレないようにね」

 それが中々難しいんだよ。

 胸中で呟いて、俺はしかしそんな心中とは裏腹に頷いた。





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