『おい見ろよ、またあいつだぜ』
『9教科900点? 嘘だろー…………』

「…………」

『俺達がどんなに勉強したってかないっこねーよなー』
『あいつなんざ努力なんて全然いらなくてこの結果だもんな、馬鹿らしくなってくるぜ』

「…………」

『あいつから俺等ってどう見えてんだろうなー』
『そりゃーお前、』

「…………」

『言うまでもねぇだろ、そんなのは』
『馬鹿馬鹿しくなるよなー…………』



 

 世界は凡愚にこそ、優しい。
「俺」には、厳しい。






 俺がまともに学校に通わなくなったのは、中学に入ってすぐの頃から。
 それでも一度聞いたことは消して忘れない俺の頭はこの国の暗記と詰め込み、ほんの僅かな応用で事足りる学校教育においては最優秀の成績を叩き出せた。
 だからこそ、中学三年間で出席日数「45日」―――――――けして欠席日数「45日」じゃなくて、だ―――――――にも関わらず、県内有数の進学校であるこの学校にあっさり入れたわけだけど。
 高校に入ってからも俺のその「不登校癖」は改善されることもなく、だけど自分で言うのも何だけどそこそこ社交性もあるのでそれほど浮くことも無く、俺は表面上の付き合いで何とか学生生活を乗り切ってる訳さ。

「―――――――ラビ、」
「ん? ああ、コムイ?」
「やぁ、久しぶり。最近、また教室で見ないね」
「ははっ」

 …………そんな珍しく朝から登校してきたある日。
 担任のコムイにとっ捕まった。
 コムイは俺の近所に住んでいて、尚且つ妹のリナリーが俺と歳が近く―――――――俺が不登校を始めた理由も知っているから、俺が授業に顔を出さなくて余りとやかく言わない。それは俺には有難い事さ。

「まぁ学校長も、君については大目に見るようにって言ってるし―――――――君が其れでいいなら僕は何も言わないけど」
「そりゃー有り難いお話さ」

 俺がそう応えるとコムイは軽く肩を竦めた。
 そんな仕草の中で、だけど僅かに見透かすような色を湛えた瞳からは視線を逸らす。

「…………クラスには顔出すの?」
「うん、一応ね」
「なら、是非見とくといいよ」
「?」
「転入生が入ったんだよ。一週間前に、だけど」
 
 転入生?
 この季節に? しかもこの三年に?

「何其れ、訳アリなんさ?」
「それは仲良くなって本人から直接聞きなさい。教師が言う事じゃないよ」

 …………そりゃ確かにそうだ。

「ちなみに何て奴?」
「神田君。神田ユウ君だよ」
「ふーん…………」

 どっちか悩む名前だけど、ユウ「君」ってことは男なんだろーな…………
 …………つまんねー…………

 
 ピーンポーンポーンポーン…………


 何とも気が抜けた音がした。

「あちゃ、予鈴だ。早く教室に入りなさい」
「へーい」

 言いながらコムイは先に教室に入っていく。俺も、頭の後ろで手を組みながらの教室に入った。
 
 





「あれ、ラビじゃん。久しぶりー」
「おぉー」

 表面上だけの付き合いのクラスメイトにへらりと笑って返す。
 物珍しさにか囲んでくる奴らからさり気無く視線を外して、教室内を見回した。
 見慣れた、という程見てもないがそれなりに見た回数がある奴らは流して――――――そして席の後ろのほうに、見慣れない奴を見つけた。

 …………ん?
 男…………だよな?

「なぁなぁ、あいつ誰?」

 そいつは俺の席の列の後ろの方に、やたらと女の子に囲まれていた。囲まれてる割には、誰も見てなくて外を見ている。
 俺が驚いたのは転入してきて直ぐのモテっぷりにではなく(いやそれも少しはあったけど)、そいつ自身がまるで制服とっかえたら女の子で通用しそうな顔をしてたからだ。

「ああ、神田? こないだ…………一週間くらい前? に転入してきたんだぜ」
「へぇ、珍しいさねこんな時期に」
「だろー? 何かワケ有りなんじゃねーかって専らの噂」
「だろーさぁ」

 誰だってそう思う。前の学校に居られなくなるような「何か」があったんだろうと。
 ただ此処だって私立、しかもレベル高い進学校だ。妙な事をしでかしてきたような奴をおいそれと入学させるとは思えない。

「ふぅん…………神田、ねぇ」

 女の子に囲まれてる割には上の空のそいつを、暫く観察していた。
 …………見すぎたのか、やがてそいつはこっちを見て、それから片眉を跳ね上げた。



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