「…………ん…………?」
何だこの匂い…………
…………煙草…………?
煙草なんて誰が…………
頭が、クラクラする。
「…………、」
何処だ、此処。
後ろに手をついて起き上がると、其処は見覚えの無い部屋だ。
事情が飲み込めなくて何度か瞬く。
暫くぼんやりと目に入る風景だけを見てから、視線を動かした。
いた。
…………匂いの発生源。
窓際の椅子に座ってる、紅毛の男だ。ラビよりももっと、深い色の。
って、誰だよこいつ。
呆然とそいつを眺めていると、視線に気づいたのかそいつが振り向いた。
…………顔半分を覆う、謎の仮面。
何やら派手な雰囲気だ。そしてそれにしても見覚えが無い。
見知らぬ男の部屋で寝てたって…………どんな展開だ。
「目は醒めたか」
「…………、」
「まだ痛むのか?」
「え、」
何処が?
顔に出たのか、目の前のそいつが溜息をついた。
「背中だ。痛みがないなら、それに越した事はねぇが」
「背中、」
ズキンッ!
「っ!」
言われて背中に意識を向けた瞬間、痛みが走った。
な、何だ?
見えるわけがないのに後ろを振り向くと、
「落ちた時に岩にぶつかったんだろ。痣になってるぞ」
「え、」
岩…………。
…………ああ、そうか、俺、あの崖から落ちたんだっけな…………。
自力で戻った記憶が無いんだが。
「後で礼言っとけよ。お前のクラスのラビが溺れて死に掛けてたお前を引っ張り挙げたんだ」
「!」
何時の間にだ。
それにしても、あいつが…………
「それにしても…………」
紅毛は俺を見て肩を竦めた。
「話には聞いちゃいたがな」
「?」
「まさか本当に、男子の格好させられた女子がいるとは」
「…………はぁ…………」
良くない方向に有名だな。
で、結局こいつ誰だ。
「だが、晒しはよくねぇぞ。胸が潰れる」
「はぁ…………」
だってそれが目的…………、
…………ん?
…………ちょっと待て?
ベッドに入れたままの足をもぞり、と動かしてみた。
当然濡れた感触なんて無い。
上だってそうだ。
可笑しいだろ、俺は「海に落ちた」のに。
で、何でコイツ晒しの事知ってんだ?
数秒後、俺は最も辿り着きたくない答えに辿り着いてしまった。
…………ま、さか。
「あの、」
「何だ」
「俺の、着替え…………」
「ああ…………。水色だったな」
「! あんたか――――――!!!!」
何て事しやがる!!
素っ裸に剥かれて男に下着から替えられたなんてもう腹切るしかねぇっ…………!!
ベッドの上で頭を抱えていると男が噴き出す。
何が面白いんだよこの野郎、と睨みつけるとそいつが口許を笑みに歪めながら、言った。
「冗談だ。女の保険医がやったに決まってんだろ」
「…………、」
そりゃそうだ、と思うといくらかほっとした。
からかわれた怒りに再度眉根を寄せて男を睨む。
「睨むな睨むな。しょうがねぇだろ、一応形だけでも男のお前は俺が見るフリしかねぇだろう?」
「…………。」
まぁそれはそう…………なのか…………?
何やら納得が行かない。言いくるめられている気がする。
だがしかし、その違和感の正体は掴めず、俺は大人しく頷いた。
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