部屋に戻ろうと思ったが、もう少し休んでいくように言われ、俺はベッドの上にまだいた。
 既に夕日が沈みかけている。空は橙から赤へと刻一刻と姿を変えていた。

「ああっ、神田君目が醒めたんだね!」

 そんな時、コムイが部屋に現れた。
 俺が頷くと、安堵したように笑ったコムイが紅い髪の男(結局誰だか良く分からんが、取り合えず学校の教職員らしい。しかしお前誰だと聞く訳にも行かず俺は黙っていた。)に頭を下げた。

「ありがとうございました、クロス先生」
「ああ。怪我も大した事はねぇ。あの高さから落ちたにしては奇跡的だ。頑丈なもんだな」

 頑丈…………
 褒められたようで少し気分がいい。

「そうですか…………神田君、夕食はどうするかい? 会場に行ってもいいし、もし疲れがあるようなら部屋に持っていくけど」
「…………」

 疲れてる…………という程でもないが、騒がしい夕食会場の広間でメシ食いたいとも思わない。
 狡いとは思うが、俺は部屋で食べる旨を伝え、それからベッドから起き上がった。
 クロスとかいう先生に礼を言い、自分達に割り当てられている部屋に戻る。廊下は夕食時間の為か、人気が無い。
 そういえば、鍵…………。
 ラビが居なきゃ、部屋入れねぇかもしれねぇな…………。

 ドアノブを捻ると、あっさりドアは開いた。
 無用心な…………。

 てっきり無人だと思い込んでいた部屋。
 そこには、今の空の色に良く似た奴が窓際に佇んでいた。






「あ、」
「ん? 目ぇ醒めたの?」
「ああ」

 入り口から部屋の真ん中辺りまで行く。

「悪かったな。お前に助けられたって聞いた」
「本当さぁ。突然落っこちて来るわ、水飲んで意識無いわ呼吸無いわ…………びっくりしたさ」
「…………」
「後10キロ重かったら海の中で放り出したかも」

 笑いながらラビが言う。
 確かに、意識の無い人間の体は重い荷物だ。

「しかも、野郎とキスする羽目になるし」
「…………?」

 何でだ?
 
 言いながら、ラビはこっちに向かってきた。
 擦れ違い様に俺の頭にポン、と手を載せる。

「ま、無事ならそれでいいけどね」

 ――――――…………、

 そしてそのまま、奴は部屋を出て行った。
 その後姿を、何とは無しに視線で追う。


 そう言えば…………
 俺、意識が無くて、水飲んでたって…………

 ――――――!!

「野郎とキス」って、そういう事か…………!!!


 ただの救命行動、何の意味は無い、しかも俺は建前上男であいつも男、


 そんな事誰に言われずとも分かっているのに。


 頬に集まる熱は、どうやっても追い払えなかった。




 小説頁へ