「よう神田。臨海学習、何か散々だったんだって?」
「…………あ、ああ」

 臨海学習から戻ってきて、土日を挟んで明けの月曜日。
 何時も通り俺は昼飯時に奴らにとっ捕まり、屋上に連行された。だから暑ぃんだよ此処。

「ヒヒッ、溺れたって聞いたよ? 大丈夫?」
「平気だ」

 眉根を寄せて言うジャスデロに俺は頷いた。
 大丈夫じゃなかったら登校しないし、土日道場にもいなかった。

 …………そう、土日の道場。
 一応師範代という地位にいる俺は、初心者や護身術として武道を習いに来ている女の門下生に対して師範する立場にいるのだが…………
 最悪だった。
 全く身が入らず、通常ではありえないミスばかり。
 他の師範達だけではなく、門下生にまで体調不良を心配されて休まされた。
 だけどこれは体調不良なんかじゃない。

 がちゃ、と音がして屋上と階段を隔てるドアが開いた。

「あ、もう来てたんですか」
「あ〜腹減った。つか暑い! 暑いさ此処!!」

 その声を聞いた瞬間、心の臓が激しく、狂おしく動き出す。
 思わず胸を押さえて下を向いた。
 畜生、何で、何だってこんな、不毛な事をっ…………!

「しょーがねーじゃん? 司書のババアに睨まれてるしさ、俺ら」
「まぁ飲食禁止ですもんね、あそこ」
「いっそ保健室にでも行く?」

 ジャスデロがそう言うと、モヤシが悲鳴めいた声を上げた。

「絶っっっっっ対!! 嫌です!! 何て事言うんですかジャスデロ!!」
「えー?」
「保健室なんかに昼飯食いに行ったらクロスに放り出されるのがオチだろ。それなら科学研究室の方がまだマシさぁ」

 …………クロス。
 その名前に聞き覚えを感じ、俺は隣にいたジャスデロに声を抑えて聞いた。

「おい。クロスって、誰だ?」
「ヒヒッ? クロス先生? 此処の保険医の先生だよっ! 見たことない? 紅い髪の大きい先生」
「…………ああ、うん。分かった」

 …………保険医だったのか…………。とてもそうは見えなかったが…………。
 
「そういえば、聞きましたよ神田。溺れたんですって?」

 モヤシにそう言われ俺は顔を上げた。
 まぁ、事実だ。

「崖から落ちたんさぁ。んとに、危ないったらありゃしないさ」
「ラビに感謝しといたほうがいいですよ、本当に」

 …………。

 そんな事は、俺が誰より分かってる。
 顔を上げると、ラビとモヤシはそれぞれ半透明の白いビニール袋を抱えていた。多分昼飯のパンだろう。
 
「暑。脱いどこ」
「止めたほうが良いですよ、日焼けして酷いことになりますから」
「そりゃお前は色白いからさ」
「関係あるんですか? それ」
「大アリさ」

 直ぐ傍まで来た二人は座り込んで話し込み始めた。
 ラビは手早く夏用のシャツを脱いでいく。
 見ていられずにまた視線を床に落とす。

「そいや今年の夏どーする? またウチ来るさ?」
「そうですねぇ、僕もマナが戻ってきてる時以外は暇ですから」

 …………そういえば。
 後二週間もすれば、夏休みだ。
 良かった。
 休みに入ってしまえばこいつらと――――――ラビと顔を合わせずにすむ。
 暫く顔も見ないで頭を冷やせば、こんな妙な身体症状は治まるに違いない。
 きっとそうだ。そうに違いない。

 そうじゃなきゃ、困るんだ。




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