暑い。
正に夏も盛りで、暑いことこの上ない。
素振りでも始めれば直ぐに竹刀の柄を握る手には汗が滲み、下着を着けない道着の下には汗が伝う。
門下生はもう帰り(女や子供も多いから仕方ない。日が落ちる前には家に帰さなければならないからだ)、俺は一人道場で自分の鍛錬に没頭していた所ふと気付いて時計を見た。もう六時を回っている。
どの道終われば片付けは師範の中では末席の俺の役目だから何時まで居たって構いはしない。だが時間が時間だ。
学校は休みに入って久しいが、明日には道場も短いながら夏の休みに入る。遠い所から通う師範達が実家に帰れるようにするためだ。
とはいえ俺は父上母上も戻ってこないことだし、これと言って何時もと変わらない。というか道場が開かないとなるとやるべきことも然程無い。
そういえば祖母様がこの暑い季節に何故か温泉に行くとか何とか言ってたな…………男湯にぶち込まれても困るから俺は辞退したが。いや、流石にそこまでするとは思えないけれども念の為だ。
家の中は暑いし、人工の風は祖父様が嫌うからエアコンも無い。あったとしても一人なのにエアコンを入れるなんて不経済だ。
昼間は図書館にでも通うか…………。
そんな事を考えながら片づけを始めた。もう切り上げないと夕飯の時間に間に合わない。
祖父様は時間に厳格な人だから尚更だ。
武防具の手入れをしてから道場の床の磨き上げていると、外から声をかけられた。
「ユウ、お客様ですよ」
「…………? はい?」
祖母様だ。
だがしかし…………俺に客?
誰だ、と疑問を抱きながら外に出る。
と、だ。
「…………お前ら」
「ヒヒッ! 久し振り〜」
「おうおうおう、元気だったかぁ!?」
「大きい家ですね、何やってるんですか?」
「…………一斉に喋るな」
何が何だか訳分からん。
「お祖母様。夕餉には遅れるのでどうぞお先にとお祖父様にお伝えください」
「ええ、分かりましたよ。冷たいお茶でも持ってきましょうね」
祖母様が母屋に姿を消した
「お祖母様だってさ」
からかいの響きに俺は軽く視線をやり、それから騒がしい招かれざる客四人を道場の中に入れた。
「広っ! 何ですか此処。というか神田の家って何やってるとこなんです?」
「…………古武術の宗家だ。此処は剣道やってる道場」
「ああ〜…………」
「それでか…………」
モヤシとデビットが頷く。
何か納得が行ったらしい。
「ってか、暑!! エアコンは?」
「云十年前からある道場で無茶言うな。電気通ったのだって最近なんだぞ」
だが暑いのは事実といえば事実。
俺は閉めて回っていた四方の戸を全て開け放ちに戻る。
風が入れば少しは涼しいだろ。
「ユウ、此処に置いて行きますよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
全て開け終えた所で外から祖母様の声がした。
直ぐに気配が去っていく。
外を覗くと其処には盆の上に乗せられて、グラスが五つと大瓶に入った冷やした緑茶があった。
適当に道場の真ん中辺りで座っていた奴等の元へそれを持っていく。
人数分に注ぎ分けながら、俺は奴らに訊いた。
「んで? 何の用だ。つーか、何でお前ら此処の住所知ってんだ」
コムイにでも聞いたのか?
「あー住所? 学校のパソコンハックして、生徒名簿見た」
「おい」
さらりと言ってのけたラビに俺は眉根を寄せた。それは、多分不味いんじゃないのか色々と。
「ユウの転入試験の結果残念だったさ」
「…………! 何見てんだテメェ!」
関係ねぇだろそれは!!
「まーまー。仕方ないじゃないですか。僕ら神田の携帯アドレスも番号も知りませんし」
「仕方なく無い。せめてコムイに訊くとか…………」
「「「だぁってー」」」
だって、じゃねぇよ。ったく。
何て奴らだ。
「…………んで? 結局何の用なんだ」
再度訊くと、四人は気の抜けた声でああ、とかうん、とか言った。何だその反応。
「ユウもウチ来ない?」
「…………は?」
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