電車で駅を四つ、一度乗り換えてそれから三駅。
最寄の駅からは、歩いて三分の、駅の入り口が見えそうなほどの至近距離。正直、いい所住んでやがると思った。
ラビはエントランスの入り口の右横の小さな箱のような機械に手を翳した。するとピピ、と音がして正面のガラス戸が左右に開く。エントランスらしき所には大理石の床に革張りのソファーが置いてあった。来客用スペースだろう。小さな、意識しなければ聞こえないような音でクラシックの曲が流されていた。
建てられてそう経っていなさそうだ。というか、マンションの筈なのに妙な高級感が…………。
「すげぇな、ここ」
「そりゃ、賃貸じゃなくて分譲だもん」
「…………?」
それがどういう違いがあるのか俺には良く分からなかった。
こんな所で一人暮らしか…………
エレベーターに向かったラビについていく。乗り込んでラビが最上階のボタンを押した。
「あ。そういえば、お昼ご飯何か買ってくればよかったですね」
「何か出前でも取る?」
「却下。こいつの分で何人前になるんだよ。んな量悪戯だと思われるって」
確かに。
どうやって運んでくるっつーんだ。
「また後で考えればいいじゃん?」
チン、と音がしてエレベーターの戸が開いた。
整然とドアが並んだ廊下は静かで人がいるのか定かではない。
廊下の真ん中辺りまで進んだラビはまたドアの右側の機械に手を翳す。
ガチャンッ
ドアの奥から機械の作動音がした。
指紋とか、何かそんな感じのものに反応するのか?
物珍しさに思わず機械をしげしげと覗き込む。
「どしたの? ユウ」
「これどういう奴なんだ?」
「さーぁ? 此処買ったのはジジイだし…………確か静脈が何とかって言ってたかな」
「…………静脈…………」
どういう仕組みなんだか。
「あいつらリビング行ったさ。リビングこっちね」
ラビに促され、俺も靴を脱ぎフローリングの廊下を奥へと進んだ。
「…………」
絶句。
これ程、その言葉が似合う状況には、初めて出会った。
かなり広いリビング。どうやらベッドやらテーブルやらソファーが全てそろっている所を見ると、広いワンルームマンションみたいに使ってるんだろう。だが。
俺が絶句したのはその広さにではない。
その惨状だ。
「あああああ…………」
がっくりと手を床に着き悲痛な呻き声を漏らすジャスデロ。
…………部屋の中は誰がどうしたらこうなるのか問い詰めたいくらい、汚れ乱れていた。
おかしいだろ、菓子類の袋が床に落ちてたり果物の皮みたいなのが落ちてたり…………その他紙ゴミや本や雑誌が散乱している。
「…………おい…………」
何だこのゴミ屋敷…………。
「ヒヒ…………これでもデロ、昨日掃除したんだよ…………」
「…………」
俺は無言でソファーに陣取ってテレビをつけているモヤシとデビットを見た。
既に何か食ってる(俺の位置からでは後頭部しか見えないが、バリバリという咀嚼音とその速さからモヤシが何か食ってるのは明らかだ)モヤシが、その空袋を極めて自然な動作で床に落とし(余りにも自然でから一瞬わざとじゃなくて間違って落としたのかと思ったのだが、全く拾う様子が無い。わざとだ)、デビットはチョコレートか何かの包み紙を後ろ手に放り投げてきた。それは丁度俺の目の前に落ちる。
「…………」
…………おい。
「何見るさー?」
一番後ろからやってきたラビが全く意に介さない調子で二人に声を掛けた。
「おい家主」
「ん? なーにユウ」
「お前家主としてこの惨状に何か無いのか」
「惨状? …………ああ」
俺には正直床を歩くのも躊躇われるレベルなんだが。これ。
「別に、ベッドの上とソファーの上が綺麗なら良くない? 寝るわけじゃないし」
「良くない」「良くないよ」
ジャスデロとハモった。二人で顔を見合わせる。
…………良かった、こいつはまともなんだな。
「おいジャスデロ。此処の掃除道具何処だ?」
「入ってきた所の隅っこ。収納スペースあるよ」
「…………よし。おいラビ、此処の家別の部屋あるだろ?」
「あーうん、小さいのはあるけど…………何すんの」
「掃除。お前らちょっとあっち行ってろ!」
びしっ!
俺は適当なドアの方を指刺した。
するとモヤシとデビットが振り返って、
「うわ、出たよ片づけ魔第二号」
「別にちょっと位散らかってたって死にはしませんって」
「何処をどう見てもこれはちょっとってレベルじゃねぇぞ」
路上か此処は。
「兎に角! あっち行ってろ!!」
小説頁へ