「あれ?」
「? どうしました?」
「ユウがいないさ」
「「「…………あれ?」」」

 人が比較的少ないポイントに来て他の面子と合流した時。
 一人足りなかった。
 周囲には溢れんばかりの人波。この中に紛れてしまったとなると…………だ。

「なーに迷子になってんだよあいつは…………」
「どうしましょう、彼この辺の地理に疎いでしょう?」

 そりゃそうさ。初めて来たんだし。
 携帯で連絡が取れたとしても口で説明するのは難しいし、大体この混雑では繋がらない。一応、携帯を取り出してかけては見るが間を空けてからかけ直せというアナウンスが流れてきただけだった。

「探します?」
「この人ごみの中をか? …………そりゃ探すしかねーけどよ」
「ヒッ…………」
「花火始まっちまえば今よりは動かなくなるんじゃね? その頃に探すとか」
「だなー」

 その頃にはちょっとは周囲が落ち着くことを祈りつつ、ひび割れた音で流れる開会の言葉を聞き流し夜空を見上げた。







「…………はぁ、」

 パッ、と夜空に光の花が咲き、続いて破裂音が鳴り響く。その度に周囲は歓声を上げているが俺はとてもじゃねぇがそんな気分じゃなかった。
 適当に空いていた土手の階段に座り込んでぼんやりと空を見上げる。

 …………こんな事なら一人ででも留守番してりゃよかったな。

 いやしかし客が留守番っても変な話ではあるが。

 そもそも此処に辿り着くまでが大変だった。何故か女に見られ(いや正しいんだが)、暇な野郎に声を掛けられたり酷いのに至っては無理矢理手を取られたりした。(そいつらには「俺が女に見えんのかこの変態野郎!」と罵声を浴びせしつこい奴は張り飛ばした)
 ついさっきだって一人でいる奴が珍しいのか周囲の好奇の視線をふんだんに浴びていた。

「…………、」

 一応、ジャスデロの携帯に電話をかけてみるが案の定繋がらない。さっきもそうだった。
 あいつら、俺がいないの気づいてなかったりしてな。モヤシ辺りなんかは食い物に気ぃ取られて…………

 …………ありうるな…………

 で、ジャスデロはデビットに連れまわされて、ラビはその辺にいる女に声掛けて…………

「…………」

 …………それは、嫌だ。
 
 つっても、俺には関係ないし、関われることでもない。
 周囲にたくさんいる女は、ピンクやら白やら水色やらと華やかな色の浴衣に袖を通し、本来の浴衣の役目からは遠く離れてるんだろうが化粧だって綺麗に仕上げている。成程確かにこれなら男が目移りするのも分かる。

 …………俺は…………。

 空を彩る火花から目を逸らし自分の服を見下ろす。
 …………何処までもやる気が無い格好だ。
 別に羨ましいとか、そういう話じゃないんだが。
 こうも格差があると本当に同じ生き物なのか疑問に思えてくる。

 …………やめるか。これ以上考えても自分が虚しくなるだけだ。

「…………、」

 最悪、人の波に乗れば駅前に戻れるだろう。そうしたらそこからならラビのマンションは近い。
 帰り着けない事は無い…………って、
 オートロックじゃねぇかあのマンション!
 仕方ないこうなったら公園のベンチで寝るのも…………

 花火とは程遠いことを考えていた俺に、その声はやけにはっきり聞こえた!

「――――――ユウ!」
「…………ラビ?」
「あーもー。何処行ってたんさ…………しかも一人でちゃっかり優雅に花火見物してるし」

 文句をつけながらラビは俺の隣に座る。
 ポケットから携帯を取り出して、どこぞに掛け始め…………案の定直ぐに切った。

「あーあ、やっぱ駄目かぁ…………連絡どーすっかなぁ」
「連絡?」
「アレンとジャスデビに。無事迷子を保護しましたって連絡しようと思って」
「誰が迷子か」
「迷子じゃなかったって?」
「…………」

 ジト目になったラビから視線を逸らす。
 まぁ迷子と、そういえばいえなくもなくもない。かもしれない。認めるのは大分癪だが。

「皆して探してたんだからさ」
「…………」

 俺に気付かないというのは幾らなんでも失礼な話だったのかもしれない。

「ったくもう、いつも心配掛けさせてくれんだから…………」
「…………」

 呆れた声で、それでも笑うラビに。
 何故かその顔を直視していられずに、俺は夜空に咲いた花を見上げた。



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