何で人がいる!?
慌てて周囲を見回すが、人影は無い。
「?」
何処だ?
この声、何処から…………
ふと一点に気付いた。
此処はどうやら独立した部屋ではないらしい。
壁はあるにはあるのだが天井まではなく、天井から三十センチくらいのところで隣の部屋と繋がっていた。
記憶が正しければ隣は器具庫だ。
シャツに腕を通してから荷物をあいている棚に放り込んで、更衣室から出る間際に、
『きゃあっ』
「!」
女の悲鳴みたいな声がした。
何事か、と隣の器具庫の重いドアを開ける。
「…………何?」
「…………あ?」
そこにいたのは、醒めた目でこちらを睥睨する赤毛の男と、その腕の中で服を肌蹴させて笑っている女だった。
「…………」
無言でドアを閉めなおす。
…………くそ、変なもの見ちまったじゃねーか!!
まぁ、関心出来たもんじゃねぇが此処なら誰の迷惑になるって訳でもなさそうだ。きちんと掃除さえすれば。
不順異性交遊なんて俺の知った事じゃない。
勝手にやってろ、バカップル。
キーンコーン…………
「!」
うわっ…………予鈴鳴りやがった!
慌ててその場から、一路北の新体育館を目指して掛け出した。
「今の、だぁれ?」
「あー、うちのクラスの転入生。授業こっちだって勘違ったんじゃねぇ?」
「あは、何それ超間抜けじゃーん。受けるんですけど」
「そーさね」
滅多に誰も来ない――――――現にこれまで一度も誰かに踏み込まれた事なんて無い――――――此処。
入ってきたのにはちょっと驚いた。
まぁ直ぐに察したのか出て行ったけど。
「ねぇ、続きしないの?」
「まさかー」
腕の中の子に、笑いかけて。
「何の為に授業ふけてきてんのさ」
「…………」
もう、いない、よな?
授業を終えて再度旧体育館の更衣室の中。
さり気無く隣を伺ってしまったのも仕方ない事だろう。
だが隣には人の気配はないし、声や物音もしなかった。
いないならいいんだ、いないなら。
今日の授業はバスケだった。
球技は比較的やらない方の部類だが、それでもまぁなんとか男子生徒の中に混じってても誤魔化せる程度には動けたらしい。
教科担当の先生も俺を気にして、わざと少し早めに授業を切り上げてくれた。(因みに担任のコムイに聞いたのだがどうやら俺が女とバレると校長以下全教師が減給処分になるらしい。そりゃ先生達も必死になる訳だ)
ジャージを脱いで手早く制服に着替えて外に出ると、旧体育館の入り口には見慣れた人影があった。
「あ、神田君」
「…………何やってんだ?」
そこにいたのは俺の担任のコムイだ。
何かを探すようにきょろきょろしていた。
「ねぇ、ラビを見なかったかい?」
「…………」
見た、といえば見た。
だが、あの状況は説明するには余りにも、余りにもだ。
「…………授業始まる前に、そこの器具庫で見た。もういないみてぇだけどな」
「そうなの? 残念だなぁ…………もし見かけたら僕の所に来るように伝えてくれないかい? 学校長が彼を呼んでるんだ」
おいおい、あの赤毛なにやらかしたんだ?
普通校長直々の呼び出しなんざヘタすりゃ停学クラスの問題でも起こした時位しかねぇだろ、普通。
そんな顔をしたのに気付かれたのか、コムイが苦笑いした。
「別にそういう訳じゃないよ。彼の素行は確かに褒められたものじゃないけどね。…………彼は君とまた違った意味で「特別」だからね」
「…………?」
…………特別? それって何だか知らねぇけど…………天才云々と関係あるのか?
疑問に思って首を捻ってると、予鈴が鳴り響いた。
「げ」
「あ、引き止めてごめんねっ、早く次のっ…………」
コムイの言葉を最後まで聞くまでも無く、俺は駆け出していた。