「おい、どうだったよ」
「まぁまぁです。そっちは?」
「ハハン。ジャスデロがついてる俺に死角はねぇ!」
「ヒッ!」
「どうせお前ら、答え見せてもらったんだろ」
夏休み明け。
誰が言い出すまでもなく、昼休みには屋上に集まる。速やかに隅の方の日陰を占拠した。
今俺達が話していたのは夏休み明け一発目のテストだ。進学校だけあって、休みは遊ぶな勉強してろって事か。
こいつらはどうやらラビにテスト問題を教えてもらったらしい。
「神田も教えてもらえば良かったのに」
「…………あのな。それじゃテストの意味がねぇだろうが」
何の為にやってると思ってんだ。
「どーでもいいぜそんなの」
「良いのか」
「俺大学行く気ねぇしー。留年さえしなきゃいーんだよ」
デビットは良いながら右手の包み、駅の近くにあるファーストフード店のハンバーガーを口許へ運んだ。
勿論昼飯直前の授業が終わってからまだ然程の時間は経っていない。つまりこいつはこれを買いに行く為に自主休講したってことか。
「神田は? 大学受けるんですか?」
「ああ。…………向こうのな」
「へー。英語出来るんです?」
「…………」
実は未だに、出来ない。精々中学レベル、単語力など高校生の平均に遠く及ばない。一応、英語のリーバー先生に見てもらってはいるが…………
父上達との約束で、大学はあっち――――――アメリカの大学に行く事になっている。父上の赴任期間が五年だから、順当に俺が此処を卒業して向こうでも問題なく進めれば、戻ってくるのは同時になる。
だが残念ながら、今だお粗末な俺の英語力では合格云々以前に受験ですら危ないだろう。英語を母語としない学生向けの試験があるとしてもだ。
「お前それ、ムボーじゃね?」
「…………」
全く持って言う通りだ。
「諦めてこっちで受験すりゃいーじゃんよ」
「それが出来ればな…………」
「ヒッ…………教えてもらえば?」
「? 誰にだ?」
「そりゃー、そこと…………」
ジャスデロの言葉に俺が首を傾げると、デビットがモヤシを指差した。
「ラビだろ。俺達も話せるには話せるけどスラング多いぜ?」
「…………、…………。モヤシ、お前英語話せるのか?」
「あのー。僕の国籍、何処か知ってますよね?」
「? イギリスだろ?」
「ええ。イングランドです。…………イギリスの公用語は英語ですし、僕が中学一年まではあっちに居たって事も知ってますよね貴方」
「…………ああ、」
そうか。こいつは母語が英語なのか。
ポン、と手を打つとモヤシは呆れ返った顔をする。
「Kanda,×△#▼&,×○$Σ?」
「…………は?」
今なんつった?
「…………あー。良く分かりました。全然駄目ですね」
「Allen,@○××▼■Σ%&,*@△■#$」
「Yes,Σ&%$#○△」
ジャスデロが何事かモヤシに話しかけて? いや応えて? いた。
最初の名前とイエスしか聞き取れなかった…………。
「これだけ綺麗なクイーンズイングリッシュ聞き取れねーとなると相当厳しいぞお前」
デビットが眉根を寄せて俺を見た。
俺も今正直厳しいと思う。
「手っ取り早いのはあっちの恋人作る事ですけどねぇ…………あ、金髪巨乳ですよね? ぴったりじゃないですか! あっちになら本物のブロンド美人一杯いますよ。 ジャスデビ、知り合いにいません?」
「金髪巨乳ー? いたっけか? ジャスデロ」
「…………う、うーん…………」
応えなくて良いからな、ジャスデロ。
「いるにしたって、こーんな、」
「!」
いきなりデビットに手を取られて強く引き寄せられ、体のバランスを崩した。
「ナヨいのが好みなんてーの、いねーわ」
「…………だそうですよ神田。まずは筋トレからですか」
「五月蝿ぇ」
んな為にするか馬鹿!
「そういえば…………ラビ遅いね」
首を竦めて俺達のやり取りを見守っていたジャスデロが、話題変更の為かそう言った。
「あー」
「来ませんよラビは」
「…………?」
「ヒッ? そうなの?」
何でだ? 今日テストだったのに、そういえば全く姿を見せなかった…………。
「ヒヒッ! ラビは全教科テスト免除されてるんだよっ!」
「やってもどうせ満点ですしね。あと重箱の隅突くみたいにして、作成者の想定した正答以外の答え出しちゃったりしますし」
「んな面倒な事はされたくねーって、最初から全免除って訳だ。羨ましいよなー」
「でも学校も来てないんだ?」
「あー。あれらしいぜ、カノジョんトコの学校が今日創立記念だかで休みなんだとさ」
――――――…………
「ヒヒッ…………彼女、ってあの花火大会の時の子?」
「そーそー。ラビの女にしちゃ、意外に持ってるよな」
「これまでの最長記録ってどのくらいでしたっけ?」
「二週間位じゃねぇか?」
…………。
そう、か。
仲良くやってるのか…………。
「人のそういう話聞くと羨ましくなるんですよねぇ」
「何言ってんだ、出来たら出来たで一人に縛られるのは面倒だとか抜かす癖によ」
「まーそうなんですけどー」
「アレンは花火大会の子とは?」
「あれ一回だけですよ。大体、彼氏いるって言ってましたもん」
「…………、」
もそり。
口許に運んだパンは乾ききっていて、想像以上に不味かった。味のしないそれを、パックの牛乳で無理矢理喉の奥へ流し込む。
「どんな子?」
「あ、ジャスデロ興味あります? えーと、カラオケの時に撮ったのがまだ残ってるかな…………」
言いながらモヤシが携帯を何やら弄り回して、その画面をジャスデビに見せた。
「この右端の子がラビの彼女です」
「へー、なんかあいつが選ぶには珍しい感じ?」
「ホントだ…………真ん中の子じゃないんだ」
「あー、何かその子は最初に狙ってたみたいなんですけど、最終的にはこっちの子と行ったらしいですよ」
「おい、神田も見てみろよ」
「…………」
興味ない。
そう断るまでも無く、モヤシから携帯を取り上げたデビットがその俺の目の前に画面を突き出した。
「右端だってよ」
薄い茶色の、ふわふわしてそうな髪を緩く結った、ピンクの浴衣を着た女。
こいつが、ラビの…………
――――――、
喉が焼け付くように痛んだのは、真夏の暑い空気を吸ったからなのだろう。
きっとそうに、決まっている。
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