俺が通ってる学校が見たい、そんな彼女の我がままで俺は今学校の最寄り駅駅前を彼女と腕を組んでうろうろしている。
学校行かないって決めた日にわざわざこんなトコ来たくなかったけどしょうがない。拒否するほどの理由も無かった。
「あれ、かわいーよね」
「取ろうか?」
「いい、自分でやってみる」
大きな通りに面したゲーセン。
そこにおいてあったクレーンゲームの景品のぬいぐるみを指してニコニコ笑う。
そんな彼女に「どうぞ、お好きなように」って手を広げて示しておく。
やる事も特にないから、ゲーム機に向かう子の背を視線だけで追った。
この子と付き合い出して一月近く、セックスしたのは片手じゃ足りない回数。
飽きた訳では多分無い。可愛い、とは思う。ただそれだけでもあるけど。
甘い菓子が胃もたれするのに、似た感覚なんだろうか。この奇妙な倦怠感は。
「あー、もう! 惜しい〜」
一度はぬいぐるみを掴むもアームが開いてぬいぐるみは落ちる。それ彼女が悲鳴にも似た声を上げた。
そんな後姿を、まるっきり他人事、正に知らない他人を見るような目で後ろから眺めてた。
ふと口寂しさを感じて、ポケットを探る。
どこでも売ってる、選んでる理由はそれだけの白い箱から一本煙草を取り出して口に咥えた。
「――――――あ…………、」
そのとき。
小さく聞こえた、息を呑む音に近いような声を、その高さを、その色を、確かに俺の耳は聞きつけた。
驚いたように丸く見開かれた目。
漆黒のそれに見詰められて、思わず後ろめたさに咥えたばかりの煙草を手の中に落として隠す。
「お前…………」
「…………、ユウじゃん。久し振り」
出来るだけ、なるべく何でもない様子を装って声を掛ける。
夏休みの、俺の家で会ったのが最後でそれ以後は一切連絡を取ってないから本当に久し振りだ。
「…………、学校も来ねぇで何やってんだ、こんなとこで」
「あはは。今日テスト日だっけ」
「お前は免除されてんだろ?」
「、まーね」
余計な事言ったのは誰さ。ジャスデビ? アレン? コムイ? それとももっと違う、誰か?
「テストどうだった?」
「うるせぇ」
「その調子じゃ先が思いやられるさぁー」
小さく吹き出して見せるとユウはむっとした顔をする。
口をヘの字みたいに曲げて、それから――――――ユウの視線は一点で止められた。
「?」
その先を俺も追って、そして直ぐに理解する。
取れたぬいぐるみを掲げて喜んでいる女の子。
「…………お前の彼女か」
呟くような声は質問ではなく確認でもなく、ただそれが事実と知っている、それだけのもの。
「――――――うん、そう。可愛いっしょ」
「…………ああ」
驚くほど素直に頷いたユウは、右手でも持っていた通学鞄を左手に持ち替えた。
「じゃあ。俺は電車だからな」
「ああ、うん…………じゃあ、」
またね、とは言えなかった。
どうしてか、どうしても。
足早に駅に向かいながら自分に言い聞かせた。
…………痛くない、痛くなんか無い、
胸の中で小さく何度も繰り返す。
所詮物理的なものではない痛みなど、それで充分だ。
ただ、それでも、
――――――ポツン、
灰色の路面の上に、黒い滴が落ちた。
制服の袖で、素早く目の辺りを拭う。
こんな痛みなんて、所詮…………まやかしなのに。
だけどたった今目から零れるものだけは、本物なんだ。
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