School VS 52
九月の半ばに入っても、俺達の状況は大して変わっていなかった。
 変わった事といえば、ラビを学校内で見かける機会が益々減った事くらいだ。時折モヤシやデビットから伝え聞くに、恋人と仲良くしているらしい。
 恋人と仲睦まじいのはともかく、サボりは褒められた事ではないなと思いながらも、俺も留学に向けて英語の取得に忙しく其れほど気にしている暇は無かった。いや正しくは、気にしないようにしているというのが正確な表現だろう。

 それは、久し振りに奴と顔を合わせたときだった。










「うっわ、真っ黒。どこで焼いたんです? あ、皮剥けそう」
「海。ちょい季節はずれだけど、南の方はまだイケたさぁ〜」
「クラゲ出なかったか?」
「や、特に見なかったけど」

 久し振りに見たラビは、日焼けしていた。程よく焦げてて一瞬誰だか分からなかった。

「アレンは焼かんの?」
「焼きません。僕日焼けすると黒くなるんじゃなくて真っ赤になるんですよ。大体もう季節じゃないでしょう?」
「アレン色白だもんね!」
「お前らは焼く必要もないさ」
「神田は? お前も結構白いよな」
「俺も赤くなる」

 だから夏の時期の修練での走りこみなんかの時は日焼け止めは必須だ。

「まぁいんじゃね? お前ら黒くなっても似合わねぇよ」
「それはそうなんですけどねー」
「カノジョは? 焼けたか?」
「はは、真っ黒。俺と一緒さ。女の子なんだから日焼け止め塗ればよかったのに」
「お前が塗ってやりゃいいんじゃねーか」
「持ってないんだもん。どうしろっつーんさ」

 …………。

 痛ぇ。

「こないだなんかさ、俺の皮引っぺがして喜んでるの。自分のは絶対やらないんさあの子」
「そりゃ跡になりますから女の子は嫌でしょうねぇ」
「でもそういうのちょっと愉しいよな」
「ねー」
「おい、ちょっと剥かせろよラビ」
「え? こっ、こら! 止めるさ!! 痛いって!!」
「彼女にはやらせてんだろー? いいじゃん!」

 ラビにしがみつくジャスデビ、それを笑いながら見ているモヤシ、逃げようとしているラビ。
 その光景も、その声も、今はとても遠い。

 痛い。
 腹の中が、捩れて捻じ切れるみたいに、

「…………っ、」
「…………え?」
「ん? へ? お、おい神田?」
「ちょっ…………」
「ヒッ!?」








「ク、クロス――――――!」
「何だクソガキ共、騒々しい。ベッドなら貸さねぇぞ」
「そうじゃない! ユウがっ…………!」
「…………あぁ?」

 下っ腹を中心に休み無く襲ってくる痛みの波に、喋る気にもなれない。
 ラビとモヤシ、ジャスデビは俺を保健室に運び込み、保険医のクロス先生を取り囲んで騒ぎ立てている。
 痛みを堪える為に握った拳と額に脂汗が滲んできた。

「どうした」
「具合が悪いみたいなんです、お昼食べてたんですけど突然お腹押さえて倒れて…………」
「そこに寝かせろ」
「う、うん」

 寝かしつけられた長椅子の表面が冷たい気がして、背筋が泡立つ。

「何処が痛む」
「腹、の下の、ほう、」
「…………、おいお前ら、第二行って薬箱と保険医一人連れて来い」
「? わ、分かった」

 足音が遠のいて行って、ドアが閉まる音がした。

「吐き気は?」
「少し、」
「寒いか」
「はい、――――――ぅ、」

 一際強い痛みの波が襲ってくる。
 いきが、できない。

 死ぬんじゃないだろうか、と一瞬そんな考えが頭を過ぎる。

「クロス先生、お呼びですか?」
「ああ。診てやってくれ。本来そっちの管轄だ」
「こちらの…………? ! 神田さん、」
「腹痛らしい」
「まぁ…………どうしたのかしら、」

 うっすら目を開いて、視界に入ったのは第二保健室の先生だった。
 確か…………アニタ先生? だったか?

「クロス先生、すいませんけれど、」
「分かってる。後は頼むぞ」
「はい」

 言い残してクロス先生はドアの向こうに消えた。



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