「…………い、から」
「あ?」
「ずるい、から」
ずるい?
誰が?
誰がずるいって?
「俺が?」
「来たばっかりなのに、なのに…………仲良くなるから!」
そう吐き捨てて、そいつは俺を睨みつけた。
その瞳に映る色が知っている物に近くて、思わずたじろぐ。
「だって、ずるい、ずるいよこんなの…………男の子だっていうだけで、どうして?」
「――――――…………」
思いがけない言葉に、言葉を失う。
「私だってずっと見てたんだよ、ここに入ってすぐからずっと…………でもラビ君、私のことなんて一度だって見てくれなかった…………!」
非難の響きが、耳を通して頭の中でガンガン跳ね返る。
この色は知っている。
俺が自分の中に見つけて、だけどけして直視しないように目を逸らし続けてきたもの。
暗くて、ドロドロした、まるでコールタールみたいな感情。
――――――嫉妬、だ。
俺があの時確かに安堵したように。
(俺が、消えてしまえばいいと願ったように。)
「だからっ…………!」
「そういうの、やめてくんない? 迷惑さ」
振り向いた先の瞳は冷ややかな侮蔑と拒絶。それは向けられていない俺ですら、見ているだけで背筋に冷たいものが伝わる程だ。
それはその視線で射ぬかれた女にも伝わったのか見る見るうちに青ざめて、泣きそうな顔をする。
「ラ、」
「私は!」
「俺はあんたのもんじゃないし、なる予定も未来永劫無い。はっきり言ってこういうの、すげぇ迷惑だし、うざい」
「…………、」
「これまであんたが俺の噂、何流そうが見ないフリしてきたけどこれは無い。人に危害加えるとか、…………何のつもりさ?」
握りしめた拳の中は湿っているのに口の中はカラカラだ。
目の前で広がっている物なんて見えなければいい、だけど実際には耳を塞ぐ事も眼を閉じることもできない。
ラビが投げつける言葉はまるで刃みたいに、傷をつけて行く。
胃の中に冷たい、冷え切った鉄の塊でもぶち込まれた気分だ。
頭は何処か霞でもかかったみたいにボーッとして、俺はラビが言葉の暴力を振るうのを、ただ眺めているしかできなかった。
その刃が同時に俺を切り刻んでいくのを、確かに感じながら。
「…………、」
あの女、泣いてたな、
数分も立たないうちに泣き出して教室を立ち去った女の席は、SHRが始まったのに空いたままだ。
迷惑だと、ラビは言った。
そういう想いは、迷惑なのだと。
そう断じられた女の泣き顔は、俺のよく知っているものにタブって見えた。
…………、絶対に、
絶対に、気づかれてはいけないんだ。
気付かれなければ、悟られなければ迷惑にはならない、筈。
だから、早く、一刻も早く――――――
こんなモノ、消してしまえ。