帰りのショートホームルームも終わった。
 同級生は早々帰るか自習室や図書館へ、あるいは任意で受けられる補修授業を受けに出かけて行ったので教室は人気がない。
 当然廊下も静かであり、俺はそこで手伝いを申し出てくれたジャスデロと自分のロッカーを片付けていた。
 取り敢えず、綺麗にはなった。

「綺麗になったね! ヒヒッ!」
「おう。悪いな」

 いろいろ、手伝ってもらってばっかりだ。

「ううん。…………でもどうしよう? この教科書とか」
「…………買い直ししかねぇよな…………」

 泥をぶち込まれたロッカー。
 中の物を全部出して、中を拭いた。しかし中のもの、ことに紙類はどうしようもない。救いはジャージは濃色で泥が落ちなくても目立たなそうなことだが…………
 ロッカーの中の教科書はほぼ全教科、参考書や問題集の類もあるから結構な金額になるはずだ。
 大して使ってもねぇのに…………。

「コムイ先生に、予備あるか聞く?」
「全教科か? それもな…………」

 そもそも鍵を付けなかった俺にも非があるんだろう。南京錠の利用は任意だ。そして生徒の大半は付けている。俺は面倒だと付けなかった報いがこれだ。
 大人しく、小遣いで買い直すしか…………

「…………あ、」
「、」
「ラビ?」

 唐突に。
 聞こえた声に、肩が思わず一瞬揺れた。
 無意識に視線を合わさないようにと下を向き、それから不自然すぎると慌てて上を向いた。

「終わった?」
「うん、でも…………」
「…………あちゃー」

 ジャスデロが指さした、泥まみれの教科書の山ににラビが眉根を寄せて渋い顔をした。

「先生達、予備持ってると思う?」
「持ってるとは思うけどさ、くれないと思う。なくす奴とかもいただろうし、」
「うーん…………」

 そりゃそうだ。一人だけ特別に、なんて訳が無い。
 
「あー…………そっか、」
「?」

 ガチャガチャと鍵をいじって、ラビは自分のロッカーを開けた。
 
「全部あったっけな…………」
「「?」」

 奴が中から出したのは、白いビニール袋に入った何か。
 ラビはロッカーの上部にバサバサと無造作にひっくり返して中身を数え始めた。

「ん、全部ありそう。はい、これあげる」

 そして数え直したそれを全部元通りに袋に入れて、俺に寄越した。
 反射的に受け取ると、ズッシリとした重さが伝わる。
 何だ何だとジャスデロと一緒に中を覗き込んで、思わず目を見張った。

「え」
「これ、って」

 …………教科書じゃねぇか。しかも全教科、参考書や問題集まで…………
 全然折り目とかついてねぇし…………

「どうせ俺使わないし。あげる」
「ってお前、授業は」
「俺もう、出ないから」
「え、」
「やっぱ学校も退屈だしさ、あんま来ないことにしたんさ。あ、ジャージ返さなくていいからね」
「おい、ラ、」
「じゃ、俺帰るわ。じゃあね〜」

 一方的に言い置いて、ラビは背を向けながら手を振った。

「ヒッ? …………え? 何…………?」

 隣から聞こえてきたジャスデロの声は、俺の胸中をそのまま代弁しているみたいだった。



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