「…………ラ、」

 俺が靴を締まった時。廊下の隅に、鮮やかな赤が過ぎって、消えた。

「…………」

 来たのか…………。

 ティキの説得が功をそうしたのか、それともモヤシやデビットが上手くやったのかは知らないが来ているのは間違いない。あんな目立つ色合いはあいつだけだ。
 授業には顔出さないかも知れないが、来るだけでもいい。と思う。
 
「そういえばあいつが授業に出るなら教科書返さなきゃなんねーな…………」

 コムイに言って、業者教えてもらうか…………

 暫くつらつらと下足入れの前で考えていると、後ろから明るい声を掛けられた。

「ヒヒッ! おはよー神田!」
「! ジャスデロ…………、一人か?」

 振り向くとそこにいたのはジャスデロだ。しかしその隣にいるはずのデビットの姿は無かった。
 思わず訊くと、ジャスデロは少し寂しそうに笑って、

「…………うん。昨日デビ、アレンと一緒にラビの所に泊まったみたい」

 そう言った。

「…………」

 珍しい。デビットがジャスデロを置いていくなんて。珍しい所か俺が知る限りじゃ初めてだ。
 少し居心地の悪い空気が流れたが、ジャスデロが即座に話題を変えた。

「ヒヒッ…………。あ、そういえば、昨日ティキが鼻血出して帰ってきたんだけど」
「ああ…………。悪ぃ。太腿触られたから思わず裏拳入れちまった」
「ああ、やっぱりそうなんだ…………」

 運転途中の運転手に攻撃は良くなかった。事故られたら俺だって無事じゃない。この際痴漢してきた当人の安全については考慮してやらないことにする。

「今日家に帰ったら、言っとく。ごめんね! ヒッ!」
「いや、もうどうでもいいけどな。ところでさっきラビがいたぞ」
「あ! 来たの?」
「さっきあっちの方横切ってった」

 指で廊下の奥を指し示す。
 もういないのは分かってるだろうにジャスデロは身を乗り出してそっちを見た。

「そっか、良かった」


 ピーンポーンポーンポーン…………


「「あ」」

 予鈴だ!

「また後で!」
「ああ」

 片手を上げたジャスデロが走っていく。俺も教室に向かって駆け出した。









「あいつ、来てるんだよな…………?」

 来てると言ったのは俺なのに、段々自信がなくなってくる。
 朝のSHRにも、勿論授業にも、そしてたった今昼の時間にも、ラビの姿は見えない。

「ああ、来てる来てる。俺とアレンで引き摺ったし」

 フェンスに凭れかかりながら昼飯代わりのスナック菓子を食い散らかしていたデビットが軽い調子で頷いた。
 モヤシはいつも通りパンの山に挑み掛かりながら頷いた。

「校長に呼び出されてるんじゃないですか? もしくはどっかで寝てるか」
「…………そうか」

 確かに両方共有り得そうだ。

「それか…………何かから逃げてるか、ね…………」

 モヤシがぼそりと呟いた。

「何か? 何かって何だ」
「…………さぁ? 本人しか分かりませんよそんな事」

 …………?
 いかにも何か訳知り顔だが…………

「おい、」
「あ、ところでデビッド、昨日の番組の…………」

 聞こうと思った時には既にモヤシが会話を別の話題に移らせていた。
 言葉の出口を失い、俺は大人しくその言葉を飲み込んだ。









「なーおい、ラビの奴」
「でしょうねぇ。此処まで露骨だと神田が気付くのも時間の問題な気がしますが」


「全くもう…………何をしでかしたんだか」





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