あれから、あの廊下の隅でラビを見かけてから三日。
授業でも、校内でも、そして屋上でも。
ラビはいなかった。
だが見ていないのは俺だけらしく、モヤシやデビットは勿論ジャスデロも既に顔を合わせ会話を交わしたと言う。
校内は其程広くはない。と思う。
…………、作為的なモノを感じる。
授業の終りが早かったため最初に来た屋上。
フェンスに体を預けて溜息をつく。
避けられ、てる? のか?
ガチャ、
「あ、神田」
「…………」
物音と声に振り向くと、そこにいたのはいつも通り山程のパンを抱えたモヤシ。
よく飽きないな、と呆れ半分にその荷物を見やる。
「早かったんですね、授業の終わり。僕一番乗りだと思ったんですが」
「まぁな」
他の奴を待つ気はないんだろうが、「いただきます」と律儀に手を合わせたモヤシは早速ビニールの中に手を突っ込んだ。
俺はまだ弁当を開く気にはならずにそれをぼんやりと見守る。
そして、不意に口から余計な言葉が漏れた。
「…………ラビに会ったか?」
「、」
俺の問いにモヤシはピタリと手を止めて、俺を凝視した。
「俺はまだ見てねぇけど」
「…………」
「あいつ、学校来てんだろ? でも教室には顔出さねぇし…………何やってんだ?」
「…………」
ふぅ、とモヤシは大きく溜息を付いた。
「そんな事言って…………。本当は分かってるんでしょう?」
――――――。
「それとも、否定して欲しいんですか? そんな事無いって。ただの偶然、思い込み、被害妄想だって。――――――そう言って欲しいんですか?」
「…………」
見透かすような奴の視線から思わず目を逸らした。
否定して欲しい?
何を?
決まってる。
拒まれている訳じゃないんだと、これはただの偶然なのだと――――――
そんな訳が、無い。
「まぁ正直僕としては君とラビの間に何があったかなんてどうでもいいんですけどね。ただ…………この状況は頂けない」
「…………」
「一応聞いておきますよ。…………ラビに何かしたんですか?」
「何も…………」
心当たりは…………
――――――ある。
『そういうの、やめてくんない? 迷惑さ』
気づかれたつもりなんてなかった。
ポーカーフェイスは得意だった筈だ。そんな素振りをしたつもりもない。
だけど、もし、万が一、ラビが気づいてしまっていたら?
「同性」からの好意に気づいて、おぞましいと、汚らわしいと、迷惑だと…………そう思っているとしたら?
だとしたら全てが納得出来る。
ぎゅう、と胸が鋭く痛んだ。
「少なくとも.何も無いって顔じゃないですね。どうせ口割るつもりもなさそうだし、これ以上は聞きませんけれど」
正確に言い当てたモヤシはまた溜息を付いて――――――それから俺を睨んだ。
「でも。事と次第によっては、僕にも考えがありますから」
「…………」
青白い怒りがざわりと波打ったのが、見えた気がした。
「神田、…………神田?」
「あ、ああ?」
「ヒヒッ? どうしたの? 授業、始まるよ?」
「…………え? あ?」
目の前に突然ジャスデロが現れたことに驚き、次いでその言葉の内容に驚いた。
いつの間にだ!?
見れば弁当箱は空だった。食ったのか? 俺が?
全然記憶にねぇ…………。
「ずっと上の空だったね…………」
「少し、考え事してた」
覗き込んでくるジャスデロの目から逃げるようにして顔を背ける。…………ああ、そうだ。
「次の授業、体育だ。もう行く」
「あ、う、うん。行ってらっしゃい」
手早く弁当箱を風呂敷で包み、カバンに突っ込む。
パチパチと瞬きを繰り返すジャスデロはそれ以上見ずに、俺は自分のクラスの教室に向かった。